そのときだった。
三人のテーブルのそばに、ひとりの男が立った。
「あの……」
低く落ち着いた声。
ヴィンテージデニムにシンプルなTシャツ。肩までの髪。
整いすぎたくらい彫りの深い顔立ちが、店内のやわらかい照明の中でもはっきりと浮かび上がる。
三人は同時に顔を上げた。
「ん?」
軽く視線を向ける。
男は一歩だけ距離を詰めて、丁寧に頭を下げた。
「突然すみません。私、五十嵐智也と申します」
——その名前に、空気がわずかに変わる。
雅人の指先が、カップの縁で止まった。
「……」
この前陽から聞いたばかりの名前
次の言葉で、それは確信に変わった。
「あの、以前森谷陽さんとお付き合いをしていまして……」
一瞬の静寂。
「先日、陽と一緒にいらっしゃるところをお見かけして……少しお話をさせていただきたくて」
言葉は穏やかだが、視線はまっすぐだった。
「今、外からお見かけしたもので……つい、お声をかけてしまいました」
丁寧に言い切る。
——陽の、元カレ。
三人の頭の中で、同時に同じ言葉が浮かぶ。
(見た目と違って、ちゃんとしてる……)
(いや、待て)
(え、あの五十嵐智也?)
名前の重さが、じわじわと広がる。
(文芸の編集って、こういう感じなのか……?)
(というか——)
(陽の、元カレ……)
それぞれの思考が交錯する中、
雅人だけが、静かに男を見つめていた。
旬が静かに口を開いた。
「雅人、どうする?」
視線だけが、雅人に向けられる。
一瞬の間。
雅人は小さく息をついた。
「あぁ……すみません」
短く答える。
その横で、圭祐が軽く椅子に背を預けながら言った。
「こっちの話はもう終わってるんで」
さらりと続ける。
「雅人さえ良ければ」
一拍置いて、
「俺ら、いつもの店で待ってるから」
何気ない口調だったが、その実、そんな約束はしていない。
ただ——何が起きるのか、あとで全部聞くつもりだった。いや、聞きたかった。
旬がわずかに目配せをする。
雅人はその視線を受け取って、頷いた。
「……はい。では、少しなら」
席の空気が、すっと変わる。
「じゃあ、あとでな」
圭祐が軽く手を上げ、旬とともに席を立つ。
二人の背中が遠ざかっていく。
三人のテーブルのそばに、ひとりの男が立った。
「あの……」
低く落ち着いた声。
ヴィンテージデニムにシンプルなTシャツ。肩までの髪。
整いすぎたくらい彫りの深い顔立ちが、店内のやわらかい照明の中でもはっきりと浮かび上がる。
三人は同時に顔を上げた。
「ん?」
軽く視線を向ける。
男は一歩だけ距離を詰めて、丁寧に頭を下げた。
「突然すみません。私、五十嵐智也と申します」
——その名前に、空気がわずかに変わる。
雅人の指先が、カップの縁で止まった。
「……」
この前陽から聞いたばかりの名前
次の言葉で、それは確信に変わった。
「あの、以前森谷陽さんとお付き合いをしていまして……」
一瞬の静寂。
「先日、陽と一緒にいらっしゃるところをお見かけして……少しお話をさせていただきたくて」
言葉は穏やかだが、視線はまっすぐだった。
「今、外からお見かけしたもので……つい、お声をかけてしまいました」
丁寧に言い切る。
——陽の、元カレ。
三人の頭の中で、同時に同じ言葉が浮かぶ。
(見た目と違って、ちゃんとしてる……)
(いや、待て)
(え、あの五十嵐智也?)
名前の重さが、じわじわと広がる。
(文芸の編集って、こういう感じなのか……?)
(というか——)
(陽の、元カレ……)
それぞれの思考が交錯する中、
雅人だけが、静かに男を見つめていた。
旬が静かに口を開いた。
「雅人、どうする?」
視線だけが、雅人に向けられる。
一瞬の間。
雅人は小さく息をついた。
「あぁ……すみません」
短く答える。
その横で、圭祐が軽く椅子に背を預けながら言った。
「こっちの話はもう終わってるんで」
さらりと続ける。
「雅人さえ良ければ」
一拍置いて、
「俺ら、いつもの店で待ってるから」
何気ない口調だったが、その実、そんな約束はしていない。
ただ——何が起きるのか、あとで全部聞くつもりだった。いや、聞きたかった。
旬がわずかに目配せをする。
雅人はその視線を受け取って、頷いた。
「……はい。では、少しなら」
席の空気が、すっと変わる。
「じゃあ、あとでな」
圭祐が軽く手を上げ、旬とともに席を立つ。
二人の背中が遠ざかっていく。

