真昼の星空

ホテル最上階のバー。

窓の外には夜の街の光。
グラスの触れ合う小さな音。
落ち着いたジャズが流れている。

貴明が先に席についている。

テーブルの上にはまだ手を付けていない水のグラス。

そこへ晃が歩いてくる。

「広瀬さん、お待たせいたしました」

「いや、こちらこそ急にすみません。」

椅子に座る。

「懐かしい名前が聞こえたもので、つい…」

少し遠くを見る。

「お話聞きたくなって。」

晃が静かに聞く。

「陽さんのことですか?」

「はい」

短い返事。

晃がグラスに視線を落とす。

「僕も今日数年ぶりの電話だったので」

少し指で水滴をなぞる。

「最近の彼女のことはあまり知りませんけど、」

顔を上げる。

「それで良ければお話します。」

貴明が少し息を整える。

そして言う。

「私、以前お付き合いしてたんですよ。」

一瞬間。

「彼女と。」

晃の目が少し開く。

「え?」

驚きが混じる。

「そうなんですか?」

少し考える。

「それっていつ頃…」

貴明が答える。

「6、7年くらい前ですかね」

晃が静かに頷く。

「…多分その前が僕です。」

少し苦い表情。

「そうなんですか…僕、酷い事して終わっちゃって。」

視線が下がる。

「会えなくなってしまって。」

貴明も苦笑する。

「僕も、」

グラスを持つ。

「今思うと随分酷いこと言っちゃったし、」

小さく息を吐く。

「しちゃったし。」

二人。

同時にため息をつく。

静かなバーの空気の中。

同じタイミングのため息。

それがおかしくて。

二人とも少し笑う。

短い。

力の抜けた笑いだった。