なぜか、目につく人だった。
ひとりでいても、仲間といても。
駅のホームでも、講義棟へ向かう坂道でも。
同じ電車に乗ることもあった。
見かけるたび、自然と視線が向いてしまう。
いつも穏やかな空気をまとっている人。
騒がしくもなく、気取ってもいない。
ただそこにいるだけで、周りまでやわらかくなるような人。
見ただけで分かる。
優しい人、だと。
たぶん同じ一年生。
でも、名前も知らない。
学部も、どこに住んでいるのかも。
知らないことばかりなのに、彼のことが気になって仕方なかった。
陽は、自分が目立つことに無頓着だった。
整った顔立ちも、振り向かれる視線も、先輩たちからの誘いも、どこか他人事のように受け流していた。
入学して間もないのに、食事の誘いやサークルの勧誘は人一倍多かった。
けれど、陽の心はそんなことには少しも動かなかった。
名前も知らない、あの人だけだった。
女の子と二人で歩いている姿を、何度か見かけたことがある。
けれど、いつも隣にいる相手は違った。
きっと彼女ではない。
そう思いたかった。
そうであってほしかった。
神社の前を通れば、足を止めて手を合わせた。
夜、帰り道に星空を見上げても願った。
7が四つ並んだナンバーを見つけても、胸の中でそっと願掛けをした。
友達に笑いながら聞かれたことがある。
「陽って、いつも何お願いしてるの?」
陽は少し照れながら答えた。
「好きかもしれない人に、彼女がいませんようにって」
「ふーん」
自分から聞いてきたくせに、彼女はそれ以上興味もなさそうに前を向いた。
深く詮索されなかったことに、陽は少しだけ安心する。
もし続きを聞かれていたら、きっと困っていた。
けれど胸の奥では、別のことばかり膨らんでいく。
どんなふうに彼女に優しくするんだろう。
どんな声で名前を呼ぶんだろう。
どんな話し方で、どんな顔をして笑うんだろう。
想像してしまう自分が、少し嫌だった。
この大学は、陽には少しレベルが高すぎた。
ここへ来るために、人よりずっと勉強した。
遊ぶ時間も、寄り道も、恋なんてものも後回しにしてきた。
恋なんてする暇はなかった。
なのに、入学した途端この有様だ。
名前も知らない人を目で追って、見かけるたびに一日が左右される。
神社の前では手を合わせ、星を見ても願っている。
自分でもおかしくて、陽はふっと笑ってしまった。
もうすぐ夏休み。
長い休みに入れば、会えなくなる。
電車で見かけることも、キャンパスですれ違うこともなくなる。
その間に、彼に恋人ができてしまうかもしれない。
胸の奥が、きゅっと痛んだ。
陽は誰にも気づかれないように、小さく息を吐く。
彼に恋人ができませんように。
また、星空に願った。
ひとりでいても、仲間といても。
駅のホームでも、講義棟へ向かう坂道でも。
同じ電車に乗ることもあった。
見かけるたび、自然と視線が向いてしまう。
いつも穏やかな空気をまとっている人。
騒がしくもなく、気取ってもいない。
ただそこにいるだけで、周りまでやわらかくなるような人。
見ただけで分かる。
優しい人、だと。
たぶん同じ一年生。
でも、名前も知らない。
学部も、どこに住んでいるのかも。
知らないことばかりなのに、彼のことが気になって仕方なかった。
陽は、自分が目立つことに無頓着だった。
整った顔立ちも、振り向かれる視線も、先輩たちからの誘いも、どこか他人事のように受け流していた。
入学して間もないのに、食事の誘いやサークルの勧誘は人一倍多かった。
けれど、陽の心はそんなことには少しも動かなかった。
名前も知らない、あの人だけだった。
女の子と二人で歩いている姿を、何度か見かけたことがある。
けれど、いつも隣にいる相手は違った。
きっと彼女ではない。
そう思いたかった。
そうであってほしかった。
神社の前を通れば、足を止めて手を合わせた。
夜、帰り道に星空を見上げても願った。
7が四つ並んだナンバーを見つけても、胸の中でそっと願掛けをした。
友達に笑いながら聞かれたことがある。
「陽って、いつも何お願いしてるの?」
陽は少し照れながら答えた。
「好きかもしれない人に、彼女がいませんようにって」
「ふーん」
自分から聞いてきたくせに、彼女はそれ以上興味もなさそうに前を向いた。
深く詮索されなかったことに、陽は少しだけ安心する。
もし続きを聞かれていたら、きっと困っていた。
けれど胸の奥では、別のことばかり膨らんでいく。
どんなふうに彼女に優しくするんだろう。
どんな声で名前を呼ぶんだろう。
どんな話し方で、どんな顔をして笑うんだろう。
想像してしまう自分が、少し嫌だった。
この大学は、陽には少しレベルが高すぎた。
ここへ来るために、人よりずっと勉強した。
遊ぶ時間も、寄り道も、恋なんてものも後回しにしてきた。
恋なんてする暇はなかった。
なのに、入学した途端この有様だ。
名前も知らない人を目で追って、見かけるたびに一日が左右される。
神社の前では手を合わせ、星を見ても願っている。
自分でもおかしくて、陽はふっと笑ってしまった。
もうすぐ夏休み。
長い休みに入れば、会えなくなる。
電車で見かけることも、キャンパスですれ違うこともなくなる。
その間に、彼に恋人ができてしまうかもしれない。
胸の奥が、きゅっと痛んだ。
陽は誰にも気づかれないように、小さく息を吐く。
彼に恋人ができませんように。
また、星空に願った。

