真昼の星空

次の日。

2人で新大阪駅から新幹線に乗った。

「疲れたからちょっと寝る」
窓の方にもたれる。

「着いたら起こすね。ゆっくり寝て。」

またようちゃんの寝顔見られる日が来るなんて…雅人は溢れる涙を静かに拭った。
陽に気付かれないように。
あの日、飛行機が着陸してすぐに陽にLINEを送った。
「着いたよ」
だけど、既にLINEが届くことは無かった。

それっきり陽は行方不明になってしまった。
誰に聞いても、居場所がわからなかった。

雅人が予約していたレストランは高級そうな少し静かな店だった。
(まさくんこうゆうとこ来てるんだ)

向かいに座る雅人。

10年前と同じ顔なのに、
知らない時間を生きてきた顔。

新幹線と同じ他愛のない話を少しした後、陽は淡々と話し始めた。
雅人と別れたあとどんな恋愛をしてきたのか。
どんな人だったのか、どう過ごしてきたのか。
雅人の微妙な表情なんてお構い無しに。
まるで、他人の話をしているように。

雅人は思う。

(俺これ以上聞いて大丈夫か?耐えられるか?)

でも陽は淡々としている。
過去の話として話している。
でも雅人だけが分かっている。
これはただの過去じゃない。

自分がいなかった10年の重さだ。

雅人はもう覚悟していた。
諦めたわけじゃない。
ヤケでもない。

ただ。

(もう何聞いても受け止める)

そんな気持ちだった。

「最後は…3年半付き合って。」

陽が言う。

「3ヶ月前に別れた。」

「以上。」

それだけだった。

「これで全部。」

区切る言い方。でも雅人は思う。

「別れたばっかじゃん。なんで別れたの?」

陽は少しだけ視線を落とす。

多く語らない。

(まだ引きずってるのか?)

「なんかさ。」

陽が言う。

「好きな人できたって。」

あっさり言う。

でも。

少しだけ声が違う。

「そしたらしょうがないじゃん?で、別れた。」

大人の別れ方。
でも、雅人にはわかる。

(平気なわけない)

「同棲は?」

「してない。」

即答。

「まさくんとしかしてないよ。」

雅人の心が揺れる。

「同棲するとさ。別れた時大変なの学んだから。しないの。」

静かな声。
雅人は思う。

(俺だけなんだ同棲したの)
でも、俺のせいで同棲出来なくなってたのか。
嬉しいのか苦しいのか分からない感情。
少し複雑な顔になる。

陽は気付いてない。

「俺さ。」

雅人が言う。

「誰とも付き合ってない。」

陽が顔を上げる。

「陽ちゃんのことずっと探してた。」

静かな声。

「日本と海外行ったり来たりしてたから。
帰国する度に探してた。」

陽は少しだけ目を細める。

「見つからなかったでしょ。」

「全然。」

雅人が苦笑する。

「全然見つからなかった。」

陽が少し笑う。

「絶対見つからないようにしたもん。携帯変えて。それまでのSNS全部消して。引っ越して。会社もやめて」

雅人が聞く。

「……どうして?俺の事そんなに嫌だった?」

陽は小さく息を吐く。

「違う。」

少しだけ視線を落とす。

「まさくんを忘れるためでしょ。」

雅人が動けなくなる。

「待っていたくもなかったし。期待したくもなかったし。」

静かな声。
強がりじゃない。
本音。

雅人はすぐ言う。

「だから一緒に行こうって言った。離れたくなかったし。」

陽が少し笑う。
懐かしい笑い方。

「ついて行かないって選択してるからさ。
忘れる努力くらいしないと。」

少しだけ寂しそう。

「ずるいじゃん。」

雅人は何も言えない。
同時に分かっている。
あの時の選択はどちらも間違いじゃなかった。

ただ。
好きだっただけだ。