真昼の星空

雅人が少し迷ってから言う。

「ようちゃん一緒に福岡行けない?」

陽すぐ答える。

「私は1泊だけど明後日札幌なの。」

雅人少し驚く。

「そっか。」

少し笑って。

「福岡と札幌遠いね。」

陽すぐ返す。

「いやいや。」

少し笑って。

「海外よりは近いよ。」

雅人一瞬止まる。

これは責めてるわけじゃない。

ただの事実。

でも。

2人の10年を含んだ言葉。

雅人静かに言う。

「…そうだけど。」

少し間。

「今回はちゃんと帰ってくる。」

陽少し笑う。

「当たり前でしょ。」

雅人小さく言う。

「今回はちゃんと待っててもらえるようにする。」

陽少しだけ黙る。

(ずるいな)

そう思う。

でも。

嫌じゃない。

雅人は考えている。

陽は言っていた。

3ヶ月前に別れたばかり。

(まだ残ってるかもしれない)

無理もない。

10年。

自分がいなかった時間。

陽はその間。

ちゃんと誰かを好きになって。

ちゃんと傷ついて。

ちゃんと立ち直ってきた。

自分はただ探していただけ。

陽は生きていた。

年下の彼氏が忘れさせてくれたと言っていた。

なら。

今度は。

(その役目は俺だ)

胸の奥で思う。

つまらないヤキモチなんて。

焼いてる場合じゃない。

比べる必要もない。

勝ち負けでもない。

陽がまた隣で笑ってくれるなら

それでいい。

10年前。

いや。

違う。

もっと前。

陽に出会った18歳の頃。

初めて好きになった時の気持ち。

あの時みたいに。

まっすぐ。

もう一度。

恋をしよう。

今の陽に。

陽も考えていた。

誰と付き合っても。

どんな恋愛をしても。

雅人のことを忘れたことなんてなかった。

でも。

忘れないと前に進めなかった。

もう二度と会えないと思っていたから。

自分で消した。

連絡先も。

SNSも。

思い出に触れるもの全部。

それでも。

消えなかった。

新幹線で再会した時。

隣に座った雅人。

横顔。

声。

匂い。

全部一瞬で戻ってきた。

(うそでしょ)

そう思った。

心臓がうるさかった。

隣に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい。

ドキドキしていた。

平静を装っていたけど。

必死だった。

泣きそうだった。

いや。

少し泣いた。

雅人が話している時。

視線を外して。

窓の外を見るフリをして。

溢れた涙を指で拭った。

気づかれないように。

(会いたかった)

言えなかった言葉。

10年分。

胸の奥にあった。

レストランでも。

わざと恋愛の話をした。

雅人を試すように。

自分でも分かっていた。

意地悪だって。

でも。

これで引かれて。

嫌われるなら。

それでもいいと思った。

(それならまた諦められるから)

でも。

怖かった。

もし雅人も。

自分の恋愛の話をしてきたら。

耐えられるかな。

私。

笑えるかな。

普通の顔できるかな。

たぶん。

無理。

泣いちゃうかもな。

でも。

雅人は違った。

まっすぐだった。

迷いなく言った。

「ようちゃんだけ」

その一言で。

胸が苦しくなる。

さらに。

「また付き合お?」

そう言ってくれた。

本当は。

すぐ頷きたかった。

でも。

受け入れなかった。

それは。

私の小さな意地。

10年待ってたわけじゃない。

私だって前に進んでた。

そう思いたかっただけ。

もろくて。

儚くて。

意味なんてない意地。

でも。

その意地がないと。

今すぐ泣いてしまいそうだった。