Fahrenheit -華氏- Ⅲ


「ええ、必ず二村さんは今度はあたしに牙をむく。


啓は言っていた。緑川さんに近づくな、と。もっともらしい理由を言われたけれど、それも二村さんに言われたんじゃないかしら。


啓の気持ちは分からなくても、彼が緑川さんとあたしを引きはがそうとする理由に、私情は持ち込まない筈」


『ふーん…なるほどぉ。つまりMiss.緑川に近づけば、Mr.二村も瑠華に攻撃を向ける、と言うワケ?』


「そうね。でもまだ時期尚早だわ。とりあえず二村さんの動きを見るため大人しくしておく」


とは言ったものの、緑川さんは「妊娠してるかもしれない」と打ち明けられ、パーティーまで生理が来なかったら相談してください、って言っちゃったし、気になる。


『それだけなら、今がチャンス(?)じゃない?それこそMr二村はケイトのことを利用して勝利を確信したも同然だろうから、今なら気が緩んでると思うわ。


瑠華のマンションの固定電話から掛けたら?』


「いいえ、もっと安全な方法を取る」あたしは目を上げた。薄どんよりした分厚い雲が覆う夜空を睨み上げる。


「社内メールで連絡とってみる。前に緑川さんがしてくれたこと」


『なるほど、Niceidea♪』


「それとね、あの裏オークションサイトのIDとPWを調べたのはやっぱり麻野さんじゃないわ」


『それはあんたの会社のシステム課のキジマシュサだって言ったじゃない』


「うん、それは分かってるんだけどね、前に一度心音のPCに裏サイトに関する探りを入れてきた人物がいたでしょう?


あれがきっと麻野さんよ」


『ふーん、なる程。読めてきたわ。きっとMr.二村はあたしが作った偽サイトに食いついてきて、それをネタにケイトを強請った。


最初は信じなかったケイトがユージに頼んだのね』


「そ、つまり紫利さんがうちに来て三人で飲んでたときに心音の裏サイトを調べてきた“凄腕”は麻野さんだった」


あたしはそれとは別件でその夜、啓に電話を掛けたけれど彼は電話に出ることはなかった。そして翌日、こうも言っていた。『昨日裕二と飲んでたらあいつんちで潰れちまって』


それから啓の様子がどこかよそよそしくなるように感じた。



これらの発言を照合すると、この推理が妥当だろう。



あの当時は何も気付かなかったけれど、今思い返せば―――…


いいえ、今振り返ったってどうにもならない。


だって、すでに事態は動き出していたんだから。