Fahrenheit -華氏- Ⅲ


またも頬に伝った水滴に塩辛いものを感じて、あたしはぐいと乱暴に目元を拭った。


日本に来たとき、あたしはたった一人だった。


その時に戻っただけ。そう考えると、大した問題じゃない。


こういうの強がり、って言うのだろうか。


だけど


今は感傷に浸っている場合じゃない。気を引き締めなきゃ。


『ねぇ瑠華―――ケイトに本当のこと話したら…?瑠華が本当のことケイトに話したら、あたしもケイトに言われたこと素直に喋る』


心音が優しく提案してくれたけれど


「ううん、それはいい。啓が心音に何を言ったのか、今知っても仕方ないし。


本当のことを啓に言うのも―――


しない」


あたしがキッパリ言い切ると


はぁ、と心音は小さくため息。


『言い出したら聞かないからね、あんたは。昔から』ちょっと苦笑の声が混じってきた。


「あたしの性格、一番よく知ってるでしょ?」


『あたしが辛いとき、悲しいとき、寂しいとき、瑠華が必ずあたしの隣にいてくれた。同じくあんたが辛い時、悲しいとき、あたしがすぐ近くに居る―――…て言いたいけど、物理的な距離はあるし…』


「大丈夫よ、もう子供じゃないんだし。心音も仕事溜まってるでしょ?」


強がりで笑ったりもして、


でも



『あんたの闘いはあたしの闘いでもある。



まだ負けじゃない。


これからが勝負』