指先で恋を伝えて

数日後。

サロンへやって来た彩羽さんは、私の顔を見るなり嬉しそうに両手を動かした。

『お兄ちゃん、ずっと機嫌いい』

「彩羽」

隣で雅人さんが困ったように眉を寄せる。
そのやり取りに、思わず笑ってしまった。

前なら分からなかった言葉が、今はちゃんと分かる。
それが、少しくすぐったくて嬉しい。

彩羽さんが、再び、両手をひらひら動かした。それも、かなりのスピードで……。
最近じゃ、わかる単語も増えてきたのに、これでは何が何だかわからない。
私は、助けを求めるように雅人さんを見つめる。

「彩羽さんは、何て?」

すると、雅人さんは眉尻を下げ困り顔だ。
それに対して、彩羽さんは、ニヤリとしたり顔で、ペンを取り出した。
サラサラとメモにペンを走らせ、私にそれを見せる。

「彩羽!」

雅人さんの声が横から飛んで来た。
彩羽さんのメモには、こんな走り書きが……。

『お兄ちゃん、シスコンこじらせてるから、ぜんぜんモテないんだよ。美織さんが彼女になってくれて、浮かれてるの』

「ちょっ……」

慌てる雅人さんを見て、私は吹き出してしまう。
兄と妹、二人の関係は、優しくてあたかい。

『彩羽さん、ありがとう』

私たちを出会わせてくれたこと、手話を教えてくれたこと、そして、私の背中を押してくれたこと。
たくさんの感謝を込めて『ありがとう』と手で描いた。

彩羽さんは、嬉しそうに笑って、両手を動かし、言葉を紡ぐ。

『ありがとう。これからもよろしくね』

私は、胸がいっぱいで、涙が溢れそう。
でも、堪えながら何度も頷いた。

そんな私を見つめる雅人さんの手が、そっと私の指先へ触れた。
その手は、やっぱり優しくて。
私はもう、この手を離したくないと思った。