あなたの小説を売ってください


「そんなワケないでしょ!もうコリゴリだって!」


慌てた様子で両手を左右にブンブンと振る乙葉を見て、ようやく私も笑った。


「ふふ、だよね…私も監禁されたくないもん」


もう小説買取人は必要ない。

それが確認できてよかった。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか___」


ふとベンチから立とうとする私の袖口を、乙葉がつまむ。


「待って麻希、監禁といえばなんだけど…」


「ん?どうしたの?」


もう一度ベンチに座り、乙葉に向き直る。


「麻希がアタシを助けに来てくれた時、タクシーの運転手がいたでしょ?」


「あぁ…うん、いたね」


「あのおじさん、私達を下ろした後に警察に行ったらしくて…警察を連れてもう一度あの一軒家まで戻っていったらしいんだよね」


「えっ…そうなの?」


そういえば運転手のおじさんには“友達が誘拐された”って説明をしてツムグさんの車を追いかけてもらったんだっけ。

それなら事件現場としてあの場所に警察を連れて行くのも頷ける。


「それで私の親にも連絡がきたみたいでさ…“家出じゃなかったの!?”って両親が大騒ぎ!面倒な事にしたくなかったから家出で通したけどさ…」


「待って、ツムグさんの家に警察が行ったの?」


それなら乙葉が誘拐されていた痕跡も残っているだろうし、ツムグさんを捕まえてもらう事もできるんじゃ…。

そう思ったけど、乙葉は残念そうに首を振った。


「それが…何も捜査されなかったんだって」


「え…?それ、どういう事?」


私は耳を疑った。

誘拐の疑いがあるのに捜査されないなんて…そんな事があるの?