あなたの小説を売ってください


不穏な言葉も聞こえたけれど、それより今は…。

私は目を瞬かせた。

ペナルティ。

不問。

その単語がグルグルと私の頭を回る。


「やったぁ…!麻希、本当にありがとう!」


乙葉に抱きつかれて、ようやく彼女の受けたペナルティが終わったんだと実感した。

本当に…?

本当にこれで終わりなんだよね?

乙葉の背中に両腕を回し、ギュッと抱きしめる。

ツムグさんは小説を茶封筒に戻し、私達へと再度視線を向けた。


「お疲れさまでした…それでは僕はこれで」


そう言って頭を下げて、背を向けて歩き出し。

ピタリと足を止めた。

そして顔だけをこちらに向けながら、ニコリと笑う。


「また、お会いできる日を楽しみにしています」


そのセリフに体が強張る。

隣にいる乙葉のノドから「ひっ…」と小さく声が聞こえた。

私達の様子を満足そうに見つめた後、ようやくツムグさんが歩き出す。

その姿が人の波に消えていくまで、私も乙葉もベンチから動く事ができなかった。

ぶるりと体が震えて、鳥肌が立つ。

小説買取人の実態を知った以上、私達がそれを再び利用する事はないだろうけど…。

私は乙葉の顔を覗き込む。


「乙葉…まだお金、欲しい?」