あなたの小説を売ってください


「麻希」


茶封筒を握る私の手に、乙葉の手が重なる。

その手のひらの体温が温かくて、少し泣きそうになってしまう。


「大丈夫だよ、アタシ達頑張ったもん…それに麻希の書く小説の面白さは、アタシが一番よく知ってる」


「乙葉…」


いつもそうだ。

乙葉のその言葉が、何より私に勇気をくれる。

お礼を言おうとした、その時。


「相変わらず、仲がよろしいのですね」


聞き覚えのある男の子の声に、私と乙葉が飛び上がる。

声のした方角にはやはり、ツムグさんがいた。

誘拐の件なんて存在しなかったかのように、穏やかな笑みをその顔に浮かべている。


「お久しぶりです。小説を受け取りにきました」


乙葉と視線を合わせ、頷く。


「これ…書き上げた小説です」


私はゴクリとツバを飲み込み、茶封筒を渡した。

ツムグさんが中身を確認する。

ツムグさんがパラパラとページをめくり、一冊ずつ目を通していく間、緊張で胸が張り裂けそうだった。


「うん…長編が三作品…それと中編が二作品、短編が五作品ですか。お二人とも頑張りましたね。この数と質なら及第点です」


ツムグさんが私達へと笑いかける。


「代金の代わりに、“OTOHA”さんのペナルティについてはこれらの小説で不問と致します。ちょうど次の違反者も見つかった事ですしね」