あなたの小説を売ってください


その言葉に、私は唇を噛む。


「麻希ぃ…」


不安げな乙葉の声が聞こえた。

口の中に鉄の味が滲み、私は考える。

どうすれば見逃してくれるだろう。


「わ…私は」


一か八か、提案をする事にした。

ツムグさんが納得してくれるか分からないけど…今の私にはこれしか思いつかない。


「もう一ヶ月だけください…!ツムグさんが読みたい小説を書きます!お金はいりません、だからこのまま私と乙葉を逃がしてください…!」


目の前でツムグさんが瞬きをする。

言ってしまった。

もう一ヶ月欲しいなんて…やっぱり無理だろうか。

ツムグさんからしてみれば、ここで私と乙葉を逃がすリスクを負うより、この場で二人とも監禁した方が確実にいいはずだ。

いや…でもそれなら、それでも構わないかも。

外ではまだタクシーの運転手が待っててくれているはずだ。

このまま私が戻らなければ、きっと警察を呼んでくれる。

どちらに転んでも、私達が有利だ。

そんな私の思いを見透かしたのだろうか。


「…そうですね。時間が掛かりますが…それも良いかもしれません」


ツムグさんが立ち上がり、ズボンのポケットから鍵を取り出してドアを開けた。

乙葉が私の胸に飛び込んでくる。

私はその重みを受け止めながら、ツムグさんから距離をとった。