あなたの小説を売ってください


「乙葉…!うん、聞こえるよ!」


ようやく会話できるようになった乙葉に駆け寄る。

ドアポスト越しにお互いの手と手が触れ合った。


「“OTOHA”さんには今日までずっと、この防音部屋の中で小説を書いてもらっていました。それをこの特注のポストから受け取っていたんですよ」


そう言われ、上部の窓ガラスから部屋の中を見てみる。

すると、そこには確かに小さなテーブルと紙の束、ペンと消しゴムが転がっていた。


「聞いてよ麻希、もう最悪だったの…!」


乙葉が目に涙を溜めながら私の手を握りしめる。

力を込めてくる指先が少し震えていた。


「ご飯を貰うのにも一食につき一作品は小説を書けって言われて…何をするにも毎日“小説はできたか”の一点張り…もう頭がおかしくなりそう…!」


乙葉の声が段々と鼻声になってきて、私はツムグさんを見た。


「何で誘拐までして素人に小説を書かせているんですか…!?大金まで払って…そのお金があるなら売られている小説を買う事もできたはずです!」


「“まき。”さん…あなたは不特定多数が口をつけた食事を食べたいと思いますか?僕らにとって市販で売られている小説は、まさしくそれなんですよ」


ツムグさんは笑みを携えたまま、淡々と語る。

駄々をこねる子供に言い聞かせるような話し方に私は眉をひそめた。


「大衆に向けて発行される物語に、僕達は興味ないのです。欲しいのは…僕達個人が目で食べられる鮮度のいい小説。それだけの数も必要ですね」


ツムグさんの体が壁にもたれ掛かる。