部屋の近くの白い壁を、手でコツンと叩く彼の瞳が、初めてほの暗い光りを灯した。
ツムグさんは続ける。
「彼女は約一ヶ月前…作成した長編小説を僕に渡してくれました。僕はその場で確認し…そして落胆したのです」
ニコリといつもの笑みを浮かべ、彼は窓ガラスの向こうにいる乙葉を見つめる。
乙葉の声は聞こえなかったけど、その表情が真っ青になったのが目に見えて分かった。
ツムグさんは残念そうに目を閉じ、首を左右に振り呟く。
「彼女の書いた長編小説…それはAIが生成した文章を丸写しした物だったのです」
それを聞いて、私は思い出す。
失踪する前、乙葉が言っていた言葉。
“いい方法を思いついた”というのは…もしかしてAIでの文章生成の事…?
でも、だとしてもツムグさんの言葉には疑問が残る。
「何で乙葉の書いた作品が、AI生成された文章だと分かったんですか…?」
AIの書く小説、私も遊びで作って貰った事があるから知っている。
簡単なキーワードを入れるだけで、人が書いた物と変わらない小説が生成されるんだ。
それを人が書いた物かAIが書いた物かなんて、目視しただけで判別するのは難しいと思う。
だけどツムグさんは判別した。
小説を見ただけで、その一瞬で。
目の前に立つツムグさんは唇で弧を描いた。
「それは…僕ら小説買取人のサイトを立ち上げた一族が先祖代々、“文章を食べる事ができるから”ですよ」



