あなたの小説を売ってください


黒い車が止まったのは、それからしばらくしてから。

人気のない道のはずれ。

その一角にポツンと建つ豪華な一軒家の中に車が入っていくのが見え、タクシーがその近くで停車した。


「タクシー代、二万円近くかかってるけど…お嬢さん払えるんだろうね?」


不機嫌そうにこちらを見る運転手に、私は白い封筒の中身を見せる。

おじさんは目をパチパチと瞬かせた。


「お金なら持ってます。ちゃんとお支払いするので、ここで待っていてもらえますか?それと…もし私が戻らなければ、警察を呼んで下さい」


すっかり黙ってしまった運転手のおじさんに二万円を渡し、そう言い放ちながら車を下りる。

早足で向かった先の一軒家に、ちょうどツムグさんが入っていく。

私は周囲を警戒しながらドアに近づいた。

耳を傾けながら家の中の音を探る。

ツムグさんの足音が遠くに聞こえ、私は意を決してドアの取っ手を押した。

幸運な事に、鍵は掛かっていない。

だけどドアの開く音で気づかれたらおしまいだ。

私は丁寧に、けれど迅速に家の中へと体を滑り込ませて入りこむ。

室内は一般的な作りで、壁には絵画が飾られており玄関にはツムグさんの物だろう革靴が置いてある。

ここはツムグさんの家なの…?

靴を脱いで玄関に上がる。

逃げる時の事を考えたら、靴は履いたままの方が良いのかもしれない。

だけどフローリングの上を靴で歩くのは、より音が響いて気づかれる可能性がある。

靴下だけになった足元は少し心もとないけど、これで行くしかなかった。