あなたの小説を売ってください


そこには涼しげな笑みを浮かべる青年がいた。

すっかり秋の装いになった彼の瞳が柔らかく私を見つめる。


「まき。さんですね?こんにちは、お久しぶりです」


「ツムグさん…」


茶封筒を握る手に、グッと力がこもる。

焦るな…落ち着いて。

まずはそれとなく、乙葉の事を聞くんだ。

小さく息を吸って、私は声を振り絞る。


「えっと…お久しぶりです。私の事、覚えていてくれたんですね」


「えぇ、もちろん。小説をご提供して下さる作家さんの事は全員、よく覚えているんですよ」


ツムグさんがにこやかに返す。

小説買取人を利用している人が何人いるかなんて知らないけど、その記憶力すら今の私には恐ろしい物に思えた。

汗ばんだ背中がゾクリと震える。

逸らしそうになる視線を必死にツムグさんに合わせて、ごくりとツバを飲み込んだ。


「私と一緒にいた友達…乙葉の事も覚えていますか…?」


そう口にした瞬間、僅かにツムグさんの瞳孔が開いた気がした。

ほんの一瞬のその表情が不気味で、思わず顔を逸らす。


「ふふ、もちろん。今日はいらしていないのですね?お元気にしていらっしゃいますか?」


「乙葉、は…今、行方不明で…ツムグさんは何か…知らない、ですか…ね?」


ツムグさんの細められた瞳に映る私は、視線をさまよわせながらツギハギの言葉を連ねていた。


「おや…そうなんですか」


私の言葉を聞いてツムグさんは少し首を傾げた後、ニィ…と唇の端を引き上げる。