あなたの小説を売ってください


結局その日、私は一日中家で過ごした。

お母さんに怒られるなぁ、なんて頭の片隅で思いながら私は必死にノートへとペンを走らせる。

新品のリングノートには言葉の羅列が並んでいた。

小説買取人に渡すための小説。

深夜になるまで待っている時間、何もしないのが苦痛で、私はひたすらに物語をつづった。

できるだけたくさんの小説を書いて渡す。

それはお金のためだった。

でも、私欲のためではない。

そこで貰えるお金は、きっと乙葉を見つけるために役に立つはずだから必要だった。

日が暮れる。

お母さんが帰ってきて、私を呼ぶ低い声が聞こえてきた。

きっと勝手に学校をサボった事を怒っているんだろう。

私はそれに“気分が悪いから少し寝る”と答えて部屋に閉じこもった。

鍵をかけたドア越しに先程とは一転、私を心配するお母さんの優しい声が聞こえてペンが止まる。


「心配かけてごめんね、晩ご飯も今日はいいや」


顔を歪ませながら声を絞り出す。

遠のいていくお母さんの足音に、私は呟いた。


「嘘ついて、ごめんね…」


でも今は、少しでも小説を進めたい。

乙葉のために。

私は再びペンをノートに走らせた。

夜がふけていく。

カリカリと紙とペンが擦れる音が静かに部屋に響いている。

窓の外はすっかり暗くなってきて…いよいよその時間がやってきた。