それから一ヶ月が経った頃。
梅雨が明けて夏らしくなってきた7月の金曜日。
一人で中庭のベンチに座り、パンを食べていた私のスマホが鳴った。
きっと乙葉だろう。
今日、学校をサボっている彼女は予定通りなら小説買取人と会っているはずだ。
朝に一度連絡が来て、また結果を電話すると言われてたのを思い出す。
スマホを手に取り通話開始と書かれた箇所を指先でタップた。
『麻希、聞いて!ヤバいの!』
開口一番に聞こえてきた乙葉の口調は明らかに興奮していた。
「ど、どうしたの?何か変な事された?」
急に心配になってきて思わずそう問いかける。
通話先の声は“ヤバい”と“どうしよう”を繰り返していた。
これは本当に非常事態が起こったんじゃないかと身構える。
「落ち着いて、乙葉…!何がヤバいの?」
その問いかけに返ってきた言葉は想定外の事だった。
『スゴいの!中編小説を買い取ってもらったんだけど…やっぱり桁が違ってて___一作で十五万円も貰っちゃった…!』
「十五万!?」
私の発した声に周りにいた生徒達が振り向く。
慌てて声を潜め、乙葉に聞いた。
「乙葉、今日、何作持っていったんだっけ?」
『中編小説一作と、短編二作だよ』
つられて小さくなった乙葉の声に耳を澄ませ、私は考える。
中編小説が一作で十五万円…。
短編小説が一作で五万円だったから…今日の乙葉はたった一ヶ月で二十五万円も貰った事になる。
それは興奮するのも無理はないだろう。



