あなたの小説を売ってください


「あっ…」


「もう、なにやってんのよ」


乙葉がケラケラと笑う。

私は慌てて崩れ落ちた具材を手で拾い集めた。

バラバラになった白いパンとレタス、トマトを拾ってもう一度サンドイッチにする。

地面に落ちたわけじゃないからセーフでしょ。

今度は落とさないように指先に力を入れ、乙葉を見つめた。


「その…乙葉、またやるの?」


「うん、そうしよっかなーって。昨日の夜、もう一度アクセスしてみたらサイトに繋がってさ…後は必要項目を埋めるだけなんだよね」


「一回だけって言ってた、よね…?」


「そうなんだけど…ほら、やってみたら余裕だったじゃん?もう一度くらい良いかなぁって」


自身のスマホの画面を見る乙葉の目は輝いていた。

ツムグさんから現金入りの封筒を受け取った時と同じ顔。

そこには確かな“欲”が芽生えていた。


「それで麻希はどうする?」


「…え?」


「ほら、書き手の人数!麻希もやるなら二人って打ち込んでおくけど…」


乙葉が問いかける。

そんなの考えるまでもない。

私はぶんぶんと首を振った。


「…やめておく」


「そっか、分かった…でさ、今日買う本だけど___」


私がそう言うと分かっていたのか、乙葉は特に食い下がる事もなく話題を変えた。

私も深く追及するのを止めて会話を進める。

確かにツムグさんの所作に危険は感じなかったし…こうなった乙葉は私の意見より自分の興味を優先するだろう。

何より、私自身がもうツムグさんに…小説買取人に関わりたくなかった。