あなたの小説を売ってください


朝、いつものように支度をして家を出る。

ただ少しいつもと違うのは財布の中に十万円が入っている事くらい。

家に置きっ放しにして両親から追求されるのが怖くて、つい持ってきてしまった。

そのせいでいつもよりカバンを気にしてしまう。

こんな大金持った事、お年玉でもなかった。

カバンの取っ手を両手で強く握りしめていると、不意に後ろから肩を叩かれた。


「麻希!おはよ!」


振り向くと普段通りの乙葉がそこにいる。

私は激しく打ち付ける鼓動を覚え片手で胸を押さえた。


「お、乙葉…!びっくりさせないで…!」


「え、そんな強く叩いちゃった?ごめん」


「ううん、その…そうじゃなくて…」


私は乙葉の耳元で呟く。

カバンの中、財布の中身の秘密を。


「麻希も持ってきたんだ、実はアタシも…」


「乙葉も?置き場所に困るよね…こんな大金」


たかが十万円。

されど十万円だ。

バイトもしていない一女子高生が持つには多すぎる額だと思う。

うつむいた私に、今度は乙葉が耳打ちする。


「ねぇ、今日さ…学校終わったらこのお金パァッと使っちゃわない?」


「え…どういう事?」


「そのままの意味!このまま手元に残しとくのも勿体ないでしょ?小説とかさ、色々買いあさろうよ」


その言葉に私も賛同した。

でもその理由は乙葉と少し違う。

手元に残す事が勿体ない…というより、このお金を手元に置いていたくないという方が強い。

それくらい、ツムグさんから受け取ったお金が不気味な存在となっていた。