20年越しの初恋カメラの向こうの君と

スクリーンの向こう側にいた人は、今、僕の目の前に立っている。
愛斗にとって、千沢敦子は単なる「有名な女優」ではなかった。
高校時代、教室の隅で彼女の出演作を繰り返し眺めていたあの頃から、彼女は手の届かない星であり、同時に生きる指標でもあった。一度彼女が表舞台を去ったとき、心に穴が開いたような感覚に陥ったのを覚えている。
だからこそ、2019年に彼女が復帰を遂げたとき、愛斗の運命は動き出した。
「彼女と同じ場所に立ちたい」
の一心で、彼女が所属する事務所『研楽』のオーディションに挑み、奇跡的に掴み取った俳優への道。
がむしゃらに駆け抜けた一年が過ぎ、ついに運命の歯車が噛み合った。ドラマでの共演。
初めて挨拶をした日、愛斗は震える声で、ずっと胸に秘めていた想いを打ち明けた。
「高校生の時から、ずっと……千沢さんに憧れていました。大好きだったんです」
彼女は少し驚いたように目を丸くした後、柔らかく、包み込むような微笑みを返してくれた。
それから一ヶ月。撮影は順調に進み、現場での距離も少しずつ縮まってきた。
そして今日、台本には避けて通れない一文字が刻まれている。
――キスシーン。
スタジオのライトが、いつもより熱を帯びている気がした。 
ドラマの撮影現場の緊張感から、居酒屋でのプライベートな告白シーンまで、愛斗の心の高鳴りが伝わるように構成しました。
「じゃあ、本番行くよ。……アクション!」
監督の鋭い声が響き、現場の空気が一変した。
目の前には、役を纏(まと)った敦子がいる。彼女は潤んだ瞳で愛斗を見つめ、震える声で台詞を紡いだ。
「私も、あなたが好きよ真也くん。……愛してるわ」
その言葉は、ドラマの役名に向けられたものだと分かっていても、愛斗の胸を激しく突き刺した。
「俺も……愛してます」
吸い寄せられるように、愛斗は彼女の唇に重ねた。憧れ続けた人の柔らかい感触。時間が止まったような錯覚の中で、カットの声が響き渡った。
撮影終了の合図とともに唇を離すと、愛斗の顔は一気に火照り、心臓の音が耳元まで届くほどに跳ね上がった。
「敦子さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様、愛斗くん。いいシーンになったわね」
彼女の穏やかな微笑みに背中を押され、愛斗は心の中で何度も繰り返してきた言葉を、ついに口にした。
「あの……もし良ければ、この後、食事に行きませんか?」
心臓が止まるかと思うような数秒の沈黙の後、敦子は「ええ、喜んで」と優しく微笑んだ。
二人が向かったのは、ひっそりとした路地裏にある居酒屋の個室。
運ばれてきたビールで乾杯し、メニューを選びながら他愛もない会話を交わす。しかし、愛斗の頭の中は、今さっき交わしたキスの余韻と、これから伝えようとしている決意でいっぱいだった。
グラスの結露を見つめ、愛斗は意を決して顔を上げた。
「敦子さん。……さっきの撮影の台詞じゃなくて、僕自身の言葉で伝えたいことがあります」
個室のわずかな照明の下、愛斗は真っ直ぐに彼女の目を見つめ、震える手で膝を握りしめた。
「高校時代からずっと、一人の女性として、あなたが好きでした。……僕と、お付き合いしていただけませんか?」
「私もあなたが好きです」
「本当に?」
「うん」  
「俺と付き合ってください」
「はい」
愛斗は敦子に告白して両思いになった。
年の差だけど高校時代から憧れていた彼女と恋人に
なれたのだ。
愛斗は心の中で喜んだ。