私を振った同級生ドクターの距離が近すぎます!〜もしかして、私のこと好きですか〜


私は心の中で絶叫した。

肌掛けをかけ直そうとしてくれた鳴海くんの指先が、私の二の腕に触れる。
電流が走ったかのようにビクンと反応してしまった。

「あれ、藤川。起きてたの?」
「……っ!」

パニックのまま跳ね起き、壁に背を預けて彼と向き合う。

「ど、どうして鳴海くんがベッドにいるの……っ?」
「だって、『藤川《も》ベッド使っていい』って言ったら普通に返事してたし。……いいのかなと思って」

確信犯だ。秀才の彼が、助詞の使い分けを間違えるはずがない。
「でも、他に部屋があるんでしょ?」
「あるよ。筋トレ器具と医学資料で埋め尽くされてるけどね」

(……ということは、今夜はこの一点で眠るしかないということ?)

私はサイドテーブルに置いた自分の服を恨めしく見つめた。気遣いのつもりで脱いでしまったことを、猛烈に後悔する。

「……やっぱり私、リビングで寝る」
「気にならないけど?」
「っ、私が気になるの!」

鳴海くんは横向きになり、腕枕をしながらこちらを見つめている。ベッドを降りるには、彼を乗り越えなければならない。

(下はショーツ姿……ヤル気満々に見えるのだけは絶対に嫌……!)

「あの、下りたいから、どいてくれると助かるんだけど」
「乗り越えていいよ」
「え?」

戸惑ったけれど、こうなれば強行突破だ。肌掛けで下半身を隠しながら、「せーの」で大股を開いた。

その瞬間。
鳴海くんが仰向けに姿勢を変えた。踏みつけそうになり、咄嗟に腰を引いた私の体は、重力に従ってストンと落ちた。

……見事な、騎乗の体位だった。

お風呂上がりの鳴海くんを眼下に見下ろしながら、私は呆然とする。

(これ……この状況で、絶対にやってはいけない取り組みだ……)

密着した肌から、お互いの熱が伝わってくる。大人だけが反応する「何か」に、ボウッと火がつきそうになった。

「……なんの真似?」

鳴海くんに腕を掴まれ、ようやく我に返った。

「ご、ごめんなさい……っ!」

急いで降りようとした私を、上半身を起こした彼が逃さない。至近距離で向き合う羽目になり、鳴海くんの瞳の奥がギラリと光ったのがわかった。

(……男の、目だ)

愛情がなくても行為が成立してしまう、逃げ場のない空気。

「夜は……友人同士でも、そういう気分になるって聞いたことがある。……こういうの、ダメだと思う!」

私は震える手で、彼の胸を押し返した。火照る顔を伏せ、必死に伝える。

「……それは、俺だって同じだよ」
少し拗ねたような、小さな声。

(やっぱり……。鳴海くんにとって、私はただの『友人』。それ以上じゃないんだ)

分かっていたはずなのに、改めて突きつけられると胸が痛む。
それでも、彼は私の腕を離さなかった。

「藤川……俺のこと、嫌いだった?」

「えっ?」

「……あの日、どうして来てくれなかったの?」

思い当たる節は、一つしかない。

「だって……郵送でもいいですよって言われたから……っ!」
「…………は?」

数秒の間。鳴海くんが気の抜けた声を出す。

「がん検診に異常がなければ郵送できるって受付で言われたから、病院には《行かなかった》の!」
「…………」

鳴海くんが、堪えきれないように吹き出した。
「何……? そのことでしょう?」
「全然違う。けど……検査結果は大丈夫だった?」
「うん、陰性だったよ」
「そっか。よかった」

対面騎乗のまま、しばし流れるシュールな沈黙。

「……まあ、今日はいっか」

鳴海くんは私の体をひょいとベッドに降ろし、立ち上がった。
「学会のスライド作らなきゃいけないから、先に寝てて。……もう安心していいよ」

ポン、と優しく頭を撫でて、彼は部屋を出ていった。



翌朝。
眠れるわけもなく朝日を迎えた私は、身支度を整えてリビングへ向かった。
そこには、ネイビーのポロシャツをスタイリッシュに着こなした鳴海くんがいた。そのままポロの試合に出られそうなほど、眩しい。

「おはよう。鳴海くんは……眠れた?」
「仕事して、そのまま作業部屋で寝たよ」
彼は手際よくコーヒーを淹れながら、クスリと笑った。

「……昨日は俺たち、危なかったな」
「っ!?」
「なかなか、刺激的な夜だった」

手渡されたソーサーを受け取りながら、私は赤面して口を開けない。
そんな私を見て、彼が優しく微笑んだ。

「俺は、藤川との距離がすごく近くなって嬉しかった」

その言葉の真意を、あえて深くは問わなかった。
中学の時と同じ。間違えればまた二の舞になる。
でも、向けられた笑顔が温かかったから、私も自然に笑みがこぼれた。