宮古島魔法生物研究所は、東京魔法学校の関連施設らしい。
わたしが学生証を見せて、人魚を探していると言うと、すぐに船を出してくれることになった。
あと、わたしの大きな荷物も預かってもらえることになった。
「お2人とも、水中魔法は使えますか?」
乗船所へ向かいながら歩いているとき、船の操縦士さんがわたしたちに聞いた。
「お前、使えないだろ」
「残念でした。わたし、泳ぎと水中魔法だけは得意なんだから!」
「ふん、それは意外だな」
ロウくんはめずらしくわたしにむかってにやりと笑った。
お手並み拝見、とでも言いたそうな感じ。
「使えるということですね。では、こちらで水着にお着換えください。男性はこちら、女性はこちらです」
乗船所は、研究所と同じく石造りの建物だった。
わたしはダイビング用の黒い全身を包み込むウェットスーツに着替えた。
着替えて乗船所の外に出ると、既にウェットスーツに身を包んだロウくんが立っていた。
ロウくん、スタイルいいな……いや、そんなこと考えない、考えない。
「じゃあ、早速行きましょう。先日人魚の目撃情報があったポイントまで行きます」
「お願いします!」
「……お願いします」
わたしたちは船に乗りこんだ。
いわゆる漁に使われるような小型船ってこんな感じなのかな。
船はさっそく出発する。
あいかわらず海がきれい。うっとりするくらい。
30分くらい経ったあと。操縦士さんは声をあげた。
「ここです。このあたりで、亜麻色の髪の女性の、緑色のウロコのヒレを持つ人魚が目撃されました」
「わかりました」
ロウくんはゴーグルとヒレをつけながら返事をする。
そしてロウくんは小さなリュックから、なんとライフルを取りだした。
思わずわたしも操縦士さんもぎょっとする。
「安心してください、麻酔銃です。危険な水中生物もいますから」
ロウくんはそう言ったけど、たぶん、人魚にもためらいなく使う気、だよね……?
「人魚を怒らせない」。優秀な姉からの忠告だ。絶対に守らないと……。
「わ、わたしが見張ってますから!」
「お、お願いします……」
操縦士さんは心配そうに言った。
わたしは水中魔法の準備をする。
両手で口と鼻をおおうようにして、両手を離して耳元まで移動させる。
すると半透明の魔法でできたマスクが現れる。
これで水中でも呼吸したり話したりすることができるってわけ。
この魔法のマスクも万能じゃない。
普通の人だったら、15分もすれば消えちゃう。
でもわたしなら、1時間はもたせられる。
ふふふ。ロウくんも驚くだろうな。
「じゃあ、行ってきます!」
わたしは操縦士さんに声をかけた。
「はい、お気をつけて」
ロウくんも同じように水中魔法のマスクをつけて、銃を持ったまま海に飛び込んだ。
わたしも追いかけるように海に飛び込む。
海の中もすごくきれい。
サンゴ礁に、魚がたくさん泳いでる。
こういうきれいで幻想的な海に、人魚は住んでるんだろうな。
しばらく人魚を探して泳いでいると。
『まあ、わたしの海にそんな物騒なものを持って入ってきたのはだあれ?』
突然美しい歌うような声が聞こえた。後ろからだ。
わたしとロウくんが振り返ると、そこには亜麻色のウェーブの髪の、エメラルドグリーンの下半身のヒレをもつ人魚がたたずんでいた。青い宝石のような瞳がキラキラ輝いて、わたしたちを見透かしている大人の女性のようにも、純粋な女の子のようにも見える。それにしても、すごく美人……。
こちらが銃をもっているというのに、まったくおびえる様子はない。
「それはお前が攻撃的な可能性があるから……もごっ!?」
わたしはあわててロウくんの口をふさいだ。
「あ、あなたの海に似つかわしくないものを持ってきてしまったことを、お許しください。わたしたちは、あなたにお願いがあってきたのです」
「もごっ! ……そ、そうです」
わたしはロウくんの口を解放させた。
ロウくんは不服そうにわたしのことをにらみつける。
……そっちのせいのくせに。
『あら、お願いってなあに? ……なーんて。あなたたちの言いたいことはわかっているわ。どうせ、わたしのウロコが欲しいのでしょう? ウロコはあなたたち人間にとって貴重なものだそうだから』
「ぎ、ぎくっ!」
思わず口に出てしまった。
『ちょっと面白い子ね。でもわたし、ただではウロコはあげないことにしてるの。……だけど、あなたたちは運がいいわ』
「運がいい……?」
『ええ。だって2人でいるでしょう? わたし、「人間の絆」が大好きなの。お互いを思い合って、助け合って。すごくすてきな関係性だわ。……わたし、すてきな絆を見せてくれた人には、ウロコを差し上げているのよ』
げっ! 絆!?
そんなの、わたしとロウくんとの間にあるわけないよ!
人魚さんはじーっとわたしたちを見つめた。
青い宝石のような瞳が、わたしたちを映す。それは魔法の鏡のように、わたしたちに審判を下した。
『あなたたちは、不合格』
で、ですよね……。
すると、ロウくんは銃を人魚さんにかまえた。
「お前の考えは関係ない。無理やり奪うだけだ」
『あら。物騒な子ね』
人魚さんは笑みをたやさない。
で、でも、人魚さんにそんな態度とっちゃダメ!
「ロウくん! こ、この人、ちょっと物騒なんです。でも、わたしがちゃんと見張ってますから!」
わたしはロウくんにまるで抱きつくようにして銃をかまえるのをやめさせた。
男の子に抱きつくのなんて初めてだけど、そんなの今は関係ない。
「おい! ウロコが欲しくないのか!」
「そこは正攻法でいこうよ! 今はいったん帰ろう!」
わたしがそう言うと、人魚はにっこり笑った。
『あら、そちらのお嬢さんはかしこいのね。そうよ、わたしを怒らせると怖いわよ。上に浮いてる船ごと、ひっくり返してあげてもいいのよ』
ひ、ひえ~~~~!
ほら、やっぱり!
それにしても、かしこいなんて初めて言われたな……。
アリサのおかげだけど……。
「じゃあ、帰ります!」
「おい、離せ!」
わたしはロウくんを抱えたまま、上へ上へと泳いでいった。
人魚さんはにこやかに手を振っている。
『また挑戦しに来てくれてもいいのよ。そうね、明日だったらわたし、まだこのあたりにいるわ』
「はい! ではまた明日来ます!」
「おい!」
ロウくんの声を無視して、わたしたちは船へと戻った。
「くそ……! なんで止めた! オレたちに絆なんて無理に決まってるだろ!」
「た、たしかに不本意だけど、それしかないよ! あの人魚さんも言ってたでしょ? 怒らせると怖いって!」
「それは……」
チッ、とロウくんは舌打ちする。
「人魚には会えたんですね?」
操縦士さんが言った。
「はい。でも、あの人魚さんは人間の絆が大好きらしいんです。わたしたちはなんとしても仲良くなって、絆を見せつける必要が出てきました」
「は、はあ……」
わたしが言うと、操縦士さんは困ったように答えた。
「明日も船を出してもらえますか? わたしたち、明日までに仲良くなります」
「なに言ってんだ!」
ロウくんが困惑したように叫ぶ。
「わ、わかりました……。じゃあ、帰りますね」
操縦士さんはまた困ったように言った。
「……あと」
ロウくんはわたしにむかって小さな声で言った。
……あれ? ちょっと顔が赤い?
「オレに抱きついたりするのは、もうやめろ」
あ。
そ、それは、わたしもつい必死で……。
「は、はい……」
なんだか恥ずかしくなって、わたしたちはそれきり船では何も会話をしなかった。
わたしが学生証を見せて、人魚を探していると言うと、すぐに船を出してくれることになった。
あと、わたしの大きな荷物も預かってもらえることになった。
「お2人とも、水中魔法は使えますか?」
乗船所へ向かいながら歩いているとき、船の操縦士さんがわたしたちに聞いた。
「お前、使えないだろ」
「残念でした。わたし、泳ぎと水中魔法だけは得意なんだから!」
「ふん、それは意外だな」
ロウくんはめずらしくわたしにむかってにやりと笑った。
お手並み拝見、とでも言いたそうな感じ。
「使えるということですね。では、こちらで水着にお着換えください。男性はこちら、女性はこちらです」
乗船所は、研究所と同じく石造りの建物だった。
わたしはダイビング用の黒い全身を包み込むウェットスーツに着替えた。
着替えて乗船所の外に出ると、既にウェットスーツに身を包んだロウくんが立っていた。
ロウくん、スタイルいいな……いや、そんなこと考えない、考えない。
「じゃあ、早速行きましょう。先日人魚の目撃情報があったポイントまで行きます」
「お願いします!」
「……お願いします」
わたしたちは船に乗りこんだ。
いわゆる漁に使われるような小型船ってこんな感じなのかな。
船はさっそく出発する。
あいかわらず海がきれい。うっとりするくらい。
30分くらい経ったあと。操縦士さんは声をあげた。
「ここです。このあたりで、亜麻色の髪の女性の、緑色のウロコのヒレを持つ人魚が目撃されました」
「わかりました」
ロウくんはゴーグルとヒレをつけながら返事をする。
そしてロウくんは小さなリュックから、なんとライフルを取りだした。
思わずわたしも操縦士さんもぎょっとする。
「安心してください、麻酔銃です。危険な水中生物もいますから」
ロウくんはそう言ったけど、たぶん、人魚にもためらいなく使う気、だよね……?
「人魚を怒らせない」。優秀な姉からの忠告だ。絶対に守らないと……。
「わ、わたしが見張ってますから!」
「お、お願いします……」
操縦士さんは心配そうに言った。
わたしは水中魔法の準備をする。
両手で口と鼻をおおうようにして、両手を離して耳元まで移動させる。
すると半透明の魔法でできたマスクが現れる。
これで水中でも呼吸したり話したりすることができるってわけ。
この魔法のマスクも万能じゃない。
普通の人だったら、15分もすれば消えちゃう。
でもわたしなら、1時間はもたせられる。
ふふふ。ロウくんも驚くだろうな。
「じゃあ、行ってきます!」
わたしは操縦士さんに声をかけた。
「はい、お気をつけて」
ロウくんも同じように水中魔法のマスクをつけて、銃を持ったまま海に飛び込んだ。
わたしも追いかけるように海に飛び込む。
海の中もすごくきれい。
サンゴ礁に、魚がたくさん泳いでる。
こういうきれいで幻想的な海に、人魚は住んでるんだろうな。
しばらく人魚を探して泳いでいると。
『まあ、わたしの海にそんな物騒なものを持って入ってきたのはだあれ?』
突然美しい歌うような声が聞こえた。後ろからだ。
わたしとロウくんが振り返ると、そこには亜麻色のウェーブの髪の、エメラルドグリーンの下半身のヒレをもつ人魚がたたずんでいた。青い宝石のような瞳がキラキラ輝いて、わたしたちを見透かしている大人の女性のようにも、純粋な女の子のようにも見える。それにしても、すごく美人……。
こちらが銃をもっているというのに、まったくおびえる様子はない。
「それはお前が攻撃的な可能性があるから……もごっ!?」
わたしはあわててロウくんの口をふさいだ。
「あ、あなたの海に似つかわしくないものを持ってきてしまったことを、お許しください。わたしたちは、あなたにお願いがあってきたのです」
「もごっ! ……そ、そうです」
わたしはロウくんの口を解放させた。
ロウくんは不服そうにわたしのことをにらみつける。
……そっちのせいのくせに。
『あら、お願いってなあに? ……なーんて。あなたたちの言いたいことはわかっているわ。どうせ、わたしのウロコが欲しいのでしょう? ウロコはあなたたち人間にとって貴重なものだそうだから』
「ぎ、ぎくっ!」
思わず口に出てしまった。
『ちょっと面白い子ね。でもわたし、ただではウロコはあげないことにしてるの。……だけど、あなたたちは運がいいわ』
「運がいい……?」
『ええ。だって2人でいるでしょう? わたし、「人間の絆」が大好きなの。お互いを思い合って、助け合って。すごくすてきな関係性だわ。……わたし、すてきな絆を見せてくれた人には、ウロコを差し上げているのよ』
げっ! 絆!?
そんなの、わたしとロウくんとの間にあるわけないよ!
人魚さんはじーっとわたしたちを見つめた。
青い宝石のような瞳が、わたしたちを映す。それは魔法の鏡のように、わたしたちに審判を下した。
『あなたたちは、不合格』
で、ですよね……。
すると、ロウくんは銃を人魚さんにかまえた。
「お前の考えは関係ない。無理やり奪うだけだ」
『あら。物騒な子ね』
人魚さんは笑みをたやさない。
で、でも、人魚さんにそんな態度とっちゃダメ!
「ロウくん! こ、この人、ちょっと物騒なんです。でも、わたしがちゃんと見張ってますから!」
わたしはロウくんにまるで抱きつくようにして銃をかまえるのをやめさせた。
男の子に抱きつくのなんて初めてだけど、そんなの今は関係ない。
「おい! ウロコが欲しくないのか!」
「そこは正攻法でいこうよ! 今はいったん帰ろう!」
わたしがそう言うと、人魚はにっこり笑った。
『あら、そちらのお嬢さんはかしこいのね。そうよ、わたしを怒らせると怖いわよ。上に浮いてる船ごと、ひっくり返してあげてもいいのよ』
ひ、ひえ~~~~!
ほら、やっぱり!
それにしても、かしこいなんて初めて言われたな……。
アリサのおかげだけど……。
「じゃあ、帰ります!」
「おい、離せ!」
わたしはロウくんを抱えたまま、上へ上へと泳いでいった。
人魚さんはにこやかに手を振っている。
『また挑戦しに来てくれてもいいのよ。そうね、明日だったらわたし、まだこのあたりにいるわ』
「はい! ではまた明日来ます!」
「おい!」
ロウくんの声を無視して、わたしたちは船へと戻った。
「くそ……! なんで止めた! オレたちに絆なんて無理に決まってるだろ!」
「た、たしかに不本意だけど、それしかないよ! あの人魚さんも言ってたでしょ? 怒らせると怖いって!」
「それは……」
チッ、とロウくんは舌打ちする。
「人魚には会えたんですね?」
操縦士さんが言った。
「はい。でも、あの人魚さんは人間の絆が大好きらしいんです。わたしたちはなんとしても仲良くなって、絆を見せつける必要が出てきました」
「は、はあ……」
わたしが言うと、操縦士さんは困ったように答えた。
「明日も船を出してもらえますか? わたしたち、明日までに仲良くなります」
「なに言ってんだ!」
ロウくんが困惑したように叫ぶ。
「わ、わかりました……。じゃあ、帰りますね」
操縦士さんはまた困ったように言った。
「……あと」
ロウくんはわたしにむかって小さな声で言った。
……あれ? ちょっと顔が赤い?
「オレに抱きついたりするのは、もうやめろ」
あ。
そ、それは、わたしもつい必死で……。
「は、はい……」
なんだか恥ずかしくなって、わたしたちはそれきり船では何も会話をしなかった。


