留年だけは勘弁してください!~用心棒は元・暗殺者!?~

「留年だけは勘弁してください!!」

 校長室に、わたしの声がそれはそれは大きく響いた。

「それはあなたの行い次第です。……まあ、かなり絶望的ですがね」

 校長先生は冷たく言い放った。
 白髪をきれいにまとめた女性で、たぶん結構なお年だと思うけど、すごく美人。

 くそ、言葉だけじゃダメか。ならば土下座を――。
 そう思って、長い髪を振り乱して姿勢を崩そうとすると。

「土下座なんてしてもムダですからね」

 くっ。
 わたしはあきらめて立ちあがる。

青宮(あおみや)エリカさん。あなたは東京魔法学校が始まって以来最低最悪の生徒です。中学1年生の1学期にして、遅刻50回。中間テスト、期末テスト共に最下位。おまけにクラスでもめごとまで起こしました。このままでは留年は免れませんね」
「あ、あれは仕方のないことで……」
「規律を乱したことに変わりはありません」

 校長先生はぴしゃりと言った。

「うう……」
「そこで。あなたにチャンスを与えましょう」
「ち、チャンス!?」

 わたしは身を乗り出した。
 そんなチャンス、乗るしかない!
 いまのわたしは崖っぷちなのだから。

 校長先生が机に置かれていた銀色に輝く魔法の杖を取って一振りすると、わたしの前に映像が浮かびあがった。
 投影魔法だ。本などを参照したり、自分の頭の中のイメージを映像として相手に見せることができる便利な魔法。劣等生のわたしにはもちろん使うことはできない。

 浮かびあがっている映像には、海の映像が映し出されている。深い青色がとてもきれい。
 そして現れたのは……人魚?

「あなたには明日からの夏休みの特別課題として、『人魚のウロコ』を手に入れてもらいます。それができれば、留年は特別になかったことにしましょう」
「人魚のウロコ……。人魚って、どこにいるんですか?」
「そこから自分で調べてもらいます」
「ひえ~~~」

 わたしはがっくり肩を落とした。
 本を読んだりするの、苦手なんだよなあ。

「そして、人魚には攻撃的な者もいます。あなたに何かあったらそれは学校の責任ですから、用心棒をつけましょう」

 ええっ、人魚って攻撃的なの!? なんか優雅に泳いでるイメージだけど……。
 それに、用心棒をつけるって……? あ、じゃあ、用心棒の人に手伝ってもらえるじゃん!

「ただし、先ほども言いましたが、この学校始まって以来の最低最悪の生徒のあなたに、まともな用心棒をつけるつもりはありません。あなたのことですから、全部頼ってしまいますからね」

 ぎくっ。

「そこで、特別な用心棒を用意しました。――連れて来なさい」

 校長先生はお付きの者に目配せして言った。
 すると、お付きの者は校長室とつながっている別室から数人の男性を連れてきた。

 その数人の男性の中心にいたのは――なんと、手錠をつけられた、男の子だった。

 男の子っていっても、わたしよりは年上。たぶん、17、8歳くらい。
 全身真っ黒の服を着ている。髪は少し長くて、片目が隠れている。不本意そうな表情をまったく隠さない。

 ……はっきり言って、からみにくそう。

「彼は過去に暗殺未遂を犯した犯罪者。だけど拘束魔法の一種で危険な魔法は使えなくしています。そうね――『ロウブレイカー』とでも呼べばいいでしょう」

 ロウブレイカーて。
 ロウ(法律)ブレイカー(犯した者)ってまんまじゃない。
 わたしだって、それくらいはわかる。

 男性たちは、男の子の手錠を外している。

「では、話はわかりましたね。課題に励むように」

 校長先生は、それだけ言ってわたしと男の子を校長室からさっさと追い出した。

 廊下に出ると、男の子はわたしの顔を見て、「ふん」と鼻をならした。

 人魚の居場所もわからないし、この男の子とうまくいくかもわからないし、この先どうなるの!?
 でも、このチャンスにしがみつくしかない。わたしは、留年目前の崖っぷちなのだから……。