あの夏、君だけを見ていた

「お兄ちゃんおかえり」

「夏海、ただいま」
妹の夏海が出迎えてくれる。

「今日お父さん遅いって」

「分かった、今日何つくろっか」
父さんが遅い日はだいたい俺がごはんをつくる。

「なんでもいいよー」

「それがいちばん困るんだって」

うちには母さんがいない。
俺が高1の時に病気で死んだ。

「よし、麻婆豆腐つくるか」

「え?なんか良いことあった?」

「……なんでだよ」

「お兄ちゃん、なんか良いことあった日は手のこんだ料理作るよ」

……え。そうだっけ?

「……良いこと、別に無いよ」

無いよ。だって、俺、男として見られてねーもん。