初夜で狸寝入りする妻は異世界の記憶があるらしい

 先ほどは実際に会話しているような力強い声だったが、瞼は閉じられたままだ。実は起きているのではないかと勘ぐっていると、ふとエリアナの目尻からこぼれた雫が頬を伝う。
 慌てて指先で拭ってやると、彼女の強い想いを表したかのように温かかった。

(本当にただの夢か? あの悲痛な叫びは、まるで──)

 ベルトランは妻を見下ろす。エリアナは眉を寄せ、悲壮感が漂う顔つきだ。
 その痛みを少しでも和らげたくて、彼女の頭に手を伸ばす。生まれてこの方、誰かの頭を撫でた経験なんてない。できるだけ優しく指先を滑らす。慎重に、そっと。

 初めて触れた胡桃色の髪は、綿菓子のように柔らかかった。

 おずおずと何度か撫でていると、やがてエリアナが安心したように表情をゆるませた。
 しばらくして、穏やかな寝息が聞こえてきた。ベルトランは詰めていた息をゆっくりと吐き出す。

(……エリアナ。夜伽を拒むのは、覚悟が決まらないからではなく、僕に断罪される未来を恐れて? もしそうだとしたら君は一体、何の罪で処刑されそうになっている?)