初夜で狸寝入りする妻は異世界の記憶があるらしい

 彼女は誰にも相談できず、日記にその思いを吐き出すことしかできなかった。こうしている今も、その恐怖は膨れ上がっているかもしれない。無理やりに笑みを作って。

(……アレグリア侯爵家の総力をかけて、君を破滅の道になんか落とさせない)

 ベルトランは執務机の引き出しから羊皮紙を数枚取り出す。ペンスタンドから羽根ペンを抜き、先端をインク壺に浸した。

 ◇◇◇

 それから二ヶ月後。
 ベルトランは就寝準備を済ませたエリアナの部屋を訪れた。
 事前に「寝る前に少し話がしたい。今夜、君の部屋に行く」と伝えていたので、飲み物を用意したメイドはすぐに下がった。

「……あの、ベルトラン様。お話というのは?」

 ベルトランが紅茶で喉を潤していると、エリアナがネグリジェの上に羽織ったカーディガンを胸元でつかみながら、慎重に問いかけた。
 静かにティーカップを置き、不安で揺れる緑柱石の瞳を見つめる。

「最初に言っておく。僕は君の味方だ。……ミリアム・リベラという女性を知っているな?」
「……え、ええ」