初夜で狸寝入りする妻は異世界の記憶があるらしい

 よほど急いでいたのか、走り書きのような文章も多い。誰かに読まれることを前提にしていないためか、これから起こる出来事が箇条書きで列挙されていたかと思えば、砕けた口調で不満や不安が書きなぐられており、自身の破滅を防ぐ解決策も思いつくまま並べられていた。

 そのすべてに目を通し、ベルトランは日記帳を閉じた。

 ところどころ彼女の苦悩を表したように文字が歪んでいる箇所もあったが、おおよその内容は理解した。眉間に深く皺を刻み、椅子の背にもたれかかる。

(君には異世界の──前世の記憶がある。このままでは、小説通りに悪妻エリアナとして裁かれる。そう考え、やがて訪れる破滅の未来にずっと怯えていたわけか)

 日記帳によると、小説の中のエリアナはとんだ悪妻らしい。
 最初こそ従順な妻のふりをするが、徐々に化けの皮が剥がれ、侯爵家のお金を湯水のように消費するようになる。
 贅沢三昧だけでは飽き足らず、長年侯爵家に仕えてきた執事の命を脅し、嫌がる夫を閨に誘う。そして侯爵家の子を妊娠したと嘯くが、新しい使用人であるヒロインが、エリアナに悪魔の加護があることを見抜く。