初夜で狸寝入りする妻は異世界の記憶があるらしい

 ベルトランは日記帳を手に取り、鈍色の表紙をそっと撫でる。

「ご苦労だった」
「……僭越ながら、旦那様。奥様は使用人にも平等に優しく接してくださいます。仕立屋を呼んだ際も、侯爵夫人としてふさわしい品を守りつつ、高価な宝飾品をねだることもありませんでした。手持ちのアクセサリーで充分足りるとおっしゃって」
「…………」
「奥様は立派にお勤めを果たされています。どこにも恥じるべきことはございません」

 執事に太鼓判を押されるエリアナが誇らしくなる一方で、心が波立つのがわかった。
 妻の日記を盗み見るなんて、最低な行為だ。いくら侯爵家当主とはいえ、本人の許可なく読んでいい理由にはならない。
 ベルトランは渋い顔になりながらも、毅然とした口調で告げる。

「誤解があるようだから、はっきり言っておく。僕は彼女を疑っているわけではない。僕にとっても、エリアナは聡明で貞淑なよき妻だ。彼女を伴侶として迎えられた幸運に感謝している」
「そのお言葉を聞けて安心いたしました」

 執事の表情がふっと和らぎ、目尻の皺が深まった。にこにこと微笑まれ、チクチクと罪悪感が刺激される。