初夜で狸寝入りする妻は異世界の記憶があるらしい

 けれども、それだけだ。悩みを打ち明けられることも、憂いを帯びた表情を見せることもない。そのたびに、夫としての不甲斐なさを痛感した。

 夕食の席で、ベルトランは探りを入れることにした。

「エリアナ。どんな些細なことでも教えてほしい。…………何か、悩んでいることはないか?」
「? 特にはございません」
「……そうか」
「皆様にはよくしていただいています。まだ慣れないこともありますが、精一杯励んで参ります」
「責任感が強いところは君の美点だが、何事も抱えすぎはよくない。女主人が休まねば、周囲も休めない。休む時間もちゃんと作るように」

 ベルトランはそれだけを言うと、席を立った。
 廊下に出て、顎に手を当てながら早足で歩く。それぐらい動揺していた。優しく問いかければ、きっと打ち明けてくれるだろうという打算があった。
 だが、それは自惚れだった。彼女の眼差しに迷いは一切なかった。

 ため息をつき、廊下の突き当たりで足を止めた。何気なく窓の外を眺める。