初夜で狸寝入りする妻は異世界の記憶があるらしい

 侯爵夫人の務めを果たそうと自ら学ぶ勤勉さ、自分のことより他人を労る博愛の精神、いつもは控えめながらも大事な場面ではきっぱりと意見を述べる姿勢。
 彼女ほど、悪妻という言葉が似合わない妻はいない。

(所詮は夢だ。それはわかっている。単に夢見が悪かっただけかもしれないし、妻の寝言でいちいち思い悩むなんて滑稽だ。……それなのに、胸がざわつく。ただの直感だが、あれは普通の夢ではない気がする)

 まだ夫婦になって数日だ。
 心の内をさらけ出せるほどの信頼関係は、まだ築けていない。
 寝所を共にしても、心の距離は近くなるどころか、遠のいている。肌を重ねることもなく、口づけを交わすこともなく、ただ隣で寝ているだけ。

(……僕たちの間には、薄いカーテンを一枚を隔てたような距離がある。こんなに近くにいるのに、君に触れることすらできないのだから)

 エリアナは心の奥底に大きな不安を抱えているのではないか。悪夢にうなされるほどに。
 叶うならば、その心に寄り添いたい。彼女から悩みを聞いて、不安な気持ちを減らしてあげたい。しかし夫婦の営みを拒まれている現状、それは容易なことではない。