初夜で狸寝入りする妻は異世界の記憶があるらしい

 アレグリア侯爵ベルトランは困惑していた。
 緊張しながら迎えた結婚初夜だが、神の前で愛を誓ったはずの妻が寝たふりをしている。無言のまま、息を張り詰めたエリアナの寝顔を眺める。
 胡桃色の髪はゆるやかに波打ち、シーツの上に広がっている。緑柱石の瞳は長い睫毛の下に隠され、珊瑚色の愛らしい唇はぷっくり艶やかだ。

「…………」

 ベルトランは、エリアナの首筋にそっと手を添えた。
 手のひら越しに、彼女の体が硬直するのがわかった。そのまま脈を取ってみるが、明らかな動揺が伝わってくる。
 不安定な呼吸。うっすらと汗ばむ肌。じわりと薔薇色に染まる頬。

「……」
「…………。…………」
「……、…………」

 どう考えても、エリアナは起きている。
 だがその瞳は閉じられ、眉はきつく寄せられたままだ。胸元で祈るように組んだ両手がわずかに震えていた。
 手を離したベルトランは狸寝入りする妻を見下ろし、首を傾げた。

(こんなバレバレの演技をする意味があるか? 初夜の作法は軽くさらったが、僕の知らない新しい常識でもあるのだろうか……)