電話が切れた後も僕はしばらく受話器を見つめていた。
――なんだったんだろう、さっきの声。
同じ人が話していたはずなのに、まるで二人いるみたいだった。
そんな声の余韻を感じながら、そっと受話器を元に戻した。
僕たちも曲の雰囲気によって声色を変える。
それは鼻腔に響かせたり、息の量を調節したりする意図的なテクニック。
だけど、彼女の声はそういう感じじゃなかった。
そういえば、言語によって声のトーンやニュアンス、性格まで変わったように感じることがあると聞いたことがある。
だからきっと、彼女の二つの声色も言語の違いからくるものなんだと思う。
僕はベッドに倒れ込んで天井を見上げた。
シミひとつない真っ白な天井を見ながら、さっきの声の主を想像してみる。
……どんな人なんだろう。
羽毛布団みたいに柔らかい日本語と、ピンと張ったベッドシーツみたいにしなやかな英語を使い分ける人。
僕のひどい日本語を聞いた瞬間、すぐに言語を切り替える判断力のある人。
だけど、僕の日本語がひどいという雰囲気は微塵も出さない人。
……たぶん、すごく仕事ができる人なんだろうな。
寝転んだままそう結論づけた時、ピンポンと部屋のチャイムが鳴った。
僕はベッドから飛び起きると、スリッパを履くのも忘れて慌ててドアの方に走った。

