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「みんなー、転校生だぞー」
ガラッと勢いよくあいたドア。
野太いやっちゃん先生こと山田先生の声が響く。
普段ならその音と声と共に静まる教室は、いつもと違う朝にザワザワと騒がしくなる。
「この時期に転校生?めずらしいな?」
前の席の園山蒼斗が、わざわざ後ろに振り向いて話しかけてくる。
「んー、そんなこともないんじゃない?」
「そうか?俺はあったことないけどなー、こんな時期の転校生」
…僕は会ったことあるけど、来る方じゃなくて出て行く方なら。
その日は夏休みが始まる前だったから、今より少し涼しくて、それでいてジメジメした、雨の日の金曜日。
あ、でもその後修学旅行があったから、そっちが最後か。
どっちにしろ、晴れた夏休み明けの月曜の今日とは何もかもが真反対だ。
「転校生男子かなー女子かなー?男子ならノリいいやつがいいし、女子ならかわいい子がいい!」
俺的にはー、ゲーム好きか、外で遊ぶの好きなやつとかー、それか清楚な感じの子が来てほしーなー。
蒼斗が付け足したその言葉を聞いて、思わずドキッと心臓がなった。
…知ってる。その条件、全部当てはまる人。
ノリが良くて、ゲームが好きで、外で遊ぶのも好きで、背が高くて、かわいくて、髪の毛が長くてサラサラですごくストレートで、そんな…そんな女の子。
彼女の顔を思い出して、心が暖かくなって…サッと冷たくなった。
一瞬だけうつった、俯いて涙をこぼす彼女と、横で弾む野球ボール。
…あーあ、なんで思い出したんだろ。あんまり思い出さないようにしてたのに。
「おーい、佳汰?」
思わずがっくしとうなだれる僕を不審に思ったのか、目の前でひらひらと手を振る蒼斗。
「…あ、そうか。俺が来て欲しい系の女子とおまえが思ってた女子が違うのか。そーかそーか」
「…そんなんじゃない」
「じゃあ、佳汰はどんな子がいいんだよ」
「…かわいい子」
「女子は大抵みんなかわいいんだよ!!」
…こいつのバカっぷりには、正直呆れる。
「…本当の本当にかわいい子」
でもそんな蒼斗が嫌いじゃないから、一言、本音を伝えておく。
言い終えた瞬間、恥ずかしさが込み上げて来て、思わずそっぽをむく。
「なんだそれ。お前彼女いたっけ?」
「…おまえにはどこまでいったってわかんないよ」
はあ?と不審な顔をする蒼斗の後ろで、やっちゃんが廊下へ呼びかけた。
「ほら、入れよー」
相変わらず大きなその声で、教室中が静まり返る。
蒼斗も前に向き直って座る。
みんなの視線の先は、さっきやっちゃんが入って来たドア。
僕は、なんとなく見る気になれなくて、視線をずらして隣の、一つ机を挟んで左側にある窓に目を向けた。
澄んだ青空。
まるで彼女の瞳みたいだなぁ、なんて思う僕はヤバいのかもしれない。
まあ、なんでもいいんだけどさ。
視線を外して、なんとなく前を向いて。
ぱちっと目があったのは、さっきの澄んだ瞳の彼女。
…ん?
彼女の瞳は、溢れんばかりに大きく見開かれて、ぱちぱちと瞬く。
でも、次の瞬間には前みたいに笑ってみせて、口を開いた。
「滝本結愛です。これからよろしくお願いします」
あのころと変わらない声が。あれ以来聞かなくなったキミの名前が。
僕の耳を貫いた。

