毒舌いじわる男の本音。






「れいく〜んっ!私、今日クッキー焼いてきたの〜っ!怜くんにあげるねぇ〜!」

「あたしは、マカロン作ったの〜っ」

昼休み。廊下でたまたま見かけたいっくんは、可愛らしい女の子たちに囲まれていた。

どの子も大きなりぼんに、くるくるに巻かれな髪。

そして、♡がつきそうな語尾…

「そういえばあいつ、『王子様』だっけ?」

「そういえば、ってなによ。普通に王子様よ」

まあ私は興味ないけど、と付け足す隣の美羽ちゃん。

いわゆるクールビューティで、実はツンデレ。

あ、ちなみに彼氏持ちね。

そして、視線の先にいるいっくんは、美羽ちゃんとは真反対のようなタイプの女の子にお菓子を渡されてる。

「え〜!僕のためにつくってくれたの?ありがと〜」

いつものわたしの態度はどこへいったのか。

あんな毒舌イジワル男の影も形もないほどの王子様スマイルを振りまき、周りの女子の目はハートだ。

…そう、いっくんはお菓子が大好きなのだ。

特に甘いお菓子。

いつも部活で、「せんぱーい、お菓子ないのー?」と聞いてくる。

そのときだけ、今振り撒いているような王子様ボイス(命名 美羽ちゃん)で聞いてくるのに、「ない」というと、「市販のお菓子ですら用意できないなんて…先輩女子力ないですね…」(引いた顔)といらない心配をしてくる。

そして、それが今、わたしが一年のクラスの前の廊下にいる理由に繋がるんだけど…

手元の紙袋に視線を移す。

中に入ってるのは、一応、というかんじでラッピングされたシュークリーム。

…実は、「女子力ない」ってのにムカついて、持ってきたんだよね…お菓子。

しかも、手作りだよ?手作り。

あいつの「市販のすら用意できない」の「すら」に負けた感じがして、作ってきた。

もともとお菓子作りは大好きで、シュークリームも最近食べたいなーと思ってて作ったんだけど…

視線をいっくんに戻す。

「うまーっ!これ甘くておいしいね。隠し味入ってる?」

「隠し味は、怜くんへの愛だよぉ〜っ!」

クッキーを美味しそうに食べるあいつと、きゅるるんっと効果音がつきそうな女の子。

どこのバカップルの会話だよ。

あーあ、せっかく形綺麗なの、いっくんにあげようと思ってたんだけどなぁ…

「美羽ちゃん、これいる?」

ダメ元で美羽ちゃんに聞いてみる。

「ごめんだけど、私さっきも食べたからまた食べたら太る」

バッサリと切り倒された。

…さすが美羽ちゃん。細くて美しいボディーには、そんな気遣いの秘訣があったんだね…

わたしなんも気にしないで昨日3個も食べちゃったよ。

わたしが食べてもいいけど、せっかくラッピングしたしなぁ…

「あれ、森田先輩、どしたんですか?」

振り向くと、

「はるちゃんこそなにしてんの?」

下田遥くんが立っていた。

はるちゃんは、家が近所で小さい頃から仲のいいお友達。

最近では遊ぶことは減ったけど、顔を見れば話をするって感じだ。

「いや、そこ俺の教室なんだけど」

はるちゃんが指差す先は、わたしの真後ろ。

「ん?」

振り向くと、ドアが後ろにあった。

「あ、ごめんごめん」

ばかすぎだろわたし。通せんぼしてたのくらい気づけよ自分で。

ささっと脇によける。

「で、先輩なにしてんすか?ここ、一年の廊下ですけど」

「…先輩って呼ばないなら、教えてあげる」

はるちゃんの先輩呼びにむっと口を尖らせる。

「最初は『亜美』ってちゃんと言えなくて、「あいおねーちゃん」って可愛かったのに、いつのまにか苗字+先輩に…っ」

あいおねぇちゃん、悲しいよ、っと泣く真似をして付け加えてみる。

「先輩こそ、はるちゃん呼びやめてくださいって言ってんじゃないですか」

「だって、はるちゃんははるちゃんだもん」

ふいっとそっぽを向く。

そこで視界に入った手に持つ紙袋。

あ、そうだ。

「ね、はるちゃんってシュークリーム好きだったよね?」

パッと顔を上げて、はるちゃんを見上げる。

「え?あぁ、まあ…」

不思議な顔をするはるちゃん。

「これっ!つくってきたから、いらない?」

コテっと首を傾げる。

「…あいちゃんがつくってきたの?」

お、呼び方、ちょっと戻った。

「うんっ!でもあげようと思ってた人がいらないみたいで…いる?」

「いるっ!!」

やったーと喜ぶはるちゃん。

そういえばはるちゃん、わたしがつくったお菓子、いつもめっちゃ食べてたなぁ…

「じゃ、早めに食べてねー」

パシッと紙袋をはるちゃんに渡し、来た道を戻る。

「ありがとーございまーす 森田せんぱーい」

「いいえー じゃーねー」

手を振って、少し離れた所で待つ美羽ちゃんのもとに戻った。