悪魔の娘が帰還するまでーささやかな復讐と聖女の称号を添えてー

 アイラの長所は良くも悪くも素直で、何事も信じやすいことだった。

 「アイラ様、次期王太子妃になられるんですもの。こうして楽しくお茶をするだけでなく、社交の駆け引きも覚えなくては」
ある時、取り巻きのーアイラにとっては級友のエミリー侯爵令嬢が言った。

「ええっ…私、そういうの恐いわ」
アイラは儚げに見えるように練習した、瞳を潤ませる視線を向けながら、言った。
「大丈夫です!アイラ様が王太子妃に、ゆくゆくは女王陛下になられても私たちはずっとお支えしますわ」

既に駆け引きは始まっていた。

「アイラ様ぁ、王太子妃ともなると、国のために清濁併せ呑むことも必要になりますわ」
「我々貴族も、国のために、涙を飲んで辛い決断をすることもございますが、アイラ様は予言の乙女に選ばれる清らかなお方ですし、教会におられたので、そういったことはあまりご存知ないと思います」
「私たちが、アイラ様にお教えして差し上げますね」

「有難う!皆さん!」

間違ってはいない。王太子妃となれば、特にこの国では、暗殺の対象になったり、そうした動きを見せる貴族を先に牽制したり、時には始末することも致し方ない可能性もあるだろう。

 級友たちは、オリヴィアの家と対立する貴族である親からの使命を帯びて、その後も清濁の濁の意味について、アイラに教えてあげていた。

 だがアイラが、オリヴィアの家と対立する級友に教えてもらった暗殺者をオリヴィアに差し向けたのは、どう言い繕っても単なる私怨でしかなかった。
 暗殺は未遂に終わったが、アイラは人の命の価値すら、分からなくなっていた。

(上手くいかないものね、しぶといわ。)

しくじった暗殺者は、級友の家が巻き込まれては敵わないと秘密裏に処理した。
その報告を受けてもアイラは何とも思わなかった。

「そう、有難う。また良い人がいたら紹介してっ!」
そう殺しを笑顔で要求するアイラに、取り巻きですら笑顔が引き攣っていた。

◇◇◇
 (そういえば、あの予言の乙女って本物なのよね。)
王家の別荘のベッドの中で、ぼうっと寝ているだけで暇なオリヴィアが、ふと気になっていた。

 たしに彼女を呼ぶ時に聖なる〜〜といった人柄や属性を示す文言はなかったが、身体の記憶ではオリヴィアに暗殺者を差し向けたのは彼女だと確信するほど様々な悪行を行っていた。

「あんなのが予言の乙女で、この国は大丈夫なのかしら……」
すぐにいなくなる場所なので、気にしないようにはしているが、それでも気になってしまうレベルだった。

アイラはオリヴィアにとって相手にならなかった。その所業で傷つくことなどなかった。

だがあまりにも品がなく、例えるなら部屋に入り込んだ羽虫のような存在だった。
(そんなことより早く回復することに専念しよう)
再びオリヴィアは眠りについた。