タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです

「……心配です。でも、私じゃ何もできなくて。首を挟めることじゃないかもしれないし……かえって迷惑かもです……。そもそも、心配するような間柄なのかどうかも怪しくて……」

 内心で苦笑してから、キャサリンがそっと問い返す。

「あなたは自分たちをどう思っているの?」

 紅茶のカップが揺れる。
 波紋を見つめたままアンネが応じた。

「社会的にはパトロンと、その支援されている人という構図なのかもしれません。でも……私は、お互いが困っているなら、理由も聞かずに手助けをするような関係だと思っています。ヒューゴが参っているなら、私は手を差し伸べたい」

「そうね、とても清らかな交際だと思うわ」
「まだ、正式なお付き合いをしているわけじゃ……」

 ――そっちじゃないわよ、アンネ嬢。

 キャサリンは咳払いをして強引に話を戻す。

「肝心のパトロンがそんな状態では、何かとアンネ嬢も不便でしょう? 少し、私のほうで調べておきますわ」

 アンネがじっとキャサリンを見つめる。

「キャサリンさん。どうして、そこまで?」
「これから音楽分野の後援になろうというのですから、このくらいは当然でしょう」
「パトロンのみなさんは、そんなことまでしません」

 真剣なまなざしだ。
 天然な部分だけではなく、やは物怖じしないところも持ち合わせているらしい。

「お恥ずかしい話、私はフィリップ様のように芸術には明るくないので……ほかの方たちと差をつけるためには、こんなことでしか」

 キャサリンは言葉を濁したが、アンネは諦めない。

「それだけですか?」

 キャサリンは少し間を空けた。

「強いて言うなら、アンネ嬢のことが気になったからでしょうか」
「気にな――」

 ボッ!
 思わず、そんな効果音が聞こえて来そうなほど、アンネ嬢は顔を赤くした。

 ――大丈夫かしら、この子……。

 いったい何を勘違いしたのかと、キャサリンは困ったように笑う。

「あの……でも、私……」
「あれでしたら人助けが私の趣味なんだと、捉えてくださいな」

 納得したような、納得していないような顔でアンネがうなずく。

「すごく高尚な趣味ですね」

 キャサリンは何も言わずに微笑んだ。



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 喫茶店を出ると、雪がまた降り始めていた。
 アンネは来た方向とは逆へと歩いていく。その背中が、やがて通りの向こうで小さくなった。
 馬車を待ちながら、キャサリンはエマに声をかける。

「どう思う?」
「愛らしい方ではありませんか」

 キャサリンが軽く眉を上げてエマを見た。

「それだけ?」
「あとは、そうですね。真剣な方だとも思います。音楽に対しても、ヒューゴ様に対しても、ご自分の気持ちに正直でいようとしておられます」

 束の間、キャサリンは黙る。

 ――動かない理由は遠慮からなのか……それとも、別のものがあるのか。

 エルフェルト家の馬車が来る。
 キャサリンは乗り込みながら、今日のアンネの顔を思い返した。
 窓の外を見た瞬間に変わった、あの表情。
 通り過ぎた馬車に、ヒューゴの姿があったのかもしれない。あるいはグリーンフィールド家の紋章でも見えたのか。どちらにしても、アンネはそれに気がついて、だけど何も言わなかった。

 ――見えているのに、動けない……か。

 歯がゆいだろう。
 エマの言葉が、胸の中へと沈んでゆく。
 そういう意味では、好き勝手に動けるキャサリンの立場は、とても都合のいいものだ。

「ヒューゴ様にも会っておきたいところだけれど……」
「ご連絡を取りますか?」

 気を利かせるエマにキャサリンは首を横に振った。

 ――時間切れね。

 その前に演奏会が始まる。
 だが、大まかな背景は理解できた。大丈夫だろう。