タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです

 王宮からの帰り道にはエマが馬車で合流していた。

「アーサー様について、まとまりましたので」
「聞かせてちょうだい」

 キャサリンが窓の外から視線を戻す。

「社交界での評判はおおむね良好です。穏やかで誠実、頭も切れる。人当たりもよく、敵を作るタイプではないようです。しかし、少し気になる話もいくつか」

「……?」

 キャサリンが先を促せば、エマが手元の書類に視線を落とす。

「約束の時間や場所を、相手への確認なしに変えることが多いようです。本人に悪気はなく、むしろ相手も自分と同じ考えだろうと思っているようで……周囲の方々も、特に指摘はしていないようですが」

「……そう。王様気質なのね」

 キャサリンが短く返す。

「はい。特に、ベアトリス様に対しては、その傾向が強いようです。幼い頃からベアトリス様がアーサー様に合わせることが当たり前になっていたようで――」

「本人はそれを当然のものと思っているわけね」

 キャサリンが静かに言葉を引き取った。

 ――このぶんだと、ビオラ嬢のダメンズレーダーは百発百中ね。

「ベアトリス嬢への気持ちのほうは、どう?」

 エマが少しだけ考えてから答えた。

「少なからず好意を抱いているようなのですが、ベアトリス様が行動するのが筋だと思っているのか、自分から何かをするという発想がないようです。ベアトリス様が婚約者を得ても、どこかで『いつでも戻ってくる』と思っているような節が……周囲の証言からも、うかがえます」

「……重症ね」

 実際、半分くらいはアーサーの予言する未来へと向かっていってしまっているので、キャサリンとしても考え方自体は否定しがたい。無論、ベアトリスのことを思えば、論外である。

 キャサリンは腕を組み、しばらく黙った。
 窓の外を、雪の積もった王都が流れていく。

「エマもビオラ嬢のアンテナに引っかかった理由は、このあたりだと思う?」

 エマがうなずく。

「はい、そうですね。ビオラ様が狙うのは、エドワード様のような明確な悪意を持つ方だけではないのかもしれません。無自覚に周囲を傷つけるタイプも、その対象に含まれるのではないかと」

「本当に厄介な嗅覚ね」

 キャサリンがつぶやいた。
 ある意味では、エドワードに対する制裁は財産の持ち逃げという形で、ビオラが代わりにやってくれるのだ。これまでのケースとは違って、ビオラには幸せな家庭を壊してやろうという悪意を感じられない。ベアトリスに対する露骨な敵意はないのだ。

 ――狂犬ビオラをどう扱うかが勝負。

 ダメンズハンターとして、エドワードへの噛みつきのみを引き出せれば、ベアトリスを幸せにできる。そのためにはアーサーの言動を正さなければならない。その場限りの礼儀では、本心をビオラに看破される恐れが高かった。

「アーサー様に直接、会ってみるわ」
「場をご用意いたしましょうか」
「ええ。できれば自然な形で……フィリップ様の関係する集まりに、アーサー様も顔を出す機会はないかしら?」

 エマが少しだけ考えてから、静かにうなずいた。

「明後日、画廊で小さな展示会があります。フィリップ様もご出品される予定で、アーサー様の家も子爵なのでご招待を受けているようです」

「ちょうどいいわね」

 キャサリンが前を向いた。
 馬車が石畳の上を、ゆっくりと走り続けた。