タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです

「あなたもずいぶん変な方ですね」

 エマの発言に、ダライアスは困ったように笑う。

「よく言われます」
「でしょうね」

 小さなガラスの花を、エマは布の上に戻さなかった。
 手のひらの中で、そっと包む。

「ありがとうございます。大切にします」
「……よかった」

 心底ほっとしたような声だった。
 気を許すということは、距離を縮めることにほかならない。胸をなでおろしているダライアスを見たエマに、いたずら心が少しだけ芽生える。

「これは単に道案内のお礼として?」
「はい……いえ、あのそうではなく……」

 ダライアスは一度うなずいてから、慌てて首を振った。
 当然のように沈黙が生まれる。
 だが、エマが思っていたよりも、その静寂は短かった。

「お礼でもあります。でも、それだけではありません」
「では、なんでしょう?」

 わかりきったことをエマは尋ねてみる。かなり前から、ミリアムが背後から覗いている気がしたが、今さら隠すこともないだろうとエマは意に介さなかった。どうせ誰と親しくなろうと、ミリアムに知られるのは時間の問題なのだ。

「また……会っていただきたいです」

 ダライアスは言い切っていた。頼りないくせに、その一言だけは妙にまっすぐだ。
 つかの間、エマは返事をしなかった。
 店内に雨音が満ちている。奥の部屋から、ミリアムの動く気配がした。じれったいのだろう。そろそろ顔を出されるかもしれない。これ以上、引っ張るべきではないと思った。

「交際の申し込みと受け取っても構いませんか?」

 エマが静かに尋ねると、ダライアスは目に見えて動揺した。

「えっ。あ、はい。そうです。いえ、そう言うべきでした。すみません」
「謝るところではありません」
「では、ええと……。改めまして」

 ダライアスは姿勢を正した。
 真面目すぎるほど真剣な表情で、ダライアスがエマを見つめる。

「エマ殿。よろしければ、僕とお付き合いしていただけませんでしょうか」

 エマは手の中のガラス細工を見た。
 薄桃色の花。
 不揃いな花弁。
 けれど、壊れないよう丁寧に作られた、小さな春。
 笑いそうになってから、どうにか居住まいを正した。

「考えておきます」

 さすがに、ミリアムの前で最初から積極性を発揮するのは気が引けた。それに、すぐに頷いてしまうと、ずっと見ていたことまで見透かされそうだったのだ。

「……はい」

 明らかに落胆した顔だった。
 あまりのわかりやすさに、エマが内心でため息をつく。

「次の休日に、もう一度お茶を飲むくらいなら構いませんよ」
「本当ですか」
「ええ。ただし、今度は道を間違えないでください」
「努力します!」

 ダライアスは今度こそ、嬉しそうに笑った。
 この人は、きっとまた迷うだろう。
 そう思った。
 それでも、待ってみてもいいかもしれない。迷いながらでも着実に来ようとする人ならば、こちらから向かうのだって悪くないはずだ。

 エマは手の中のガラスの花を見つめた。
 雨の日の店内で、それは小さく春を閉じ込めたように光っていた。