天平恋詠~極道のお嬢が奈良時代に転生~病弱皇子を守って、この国、あたしが変えてみせます!

雑仕女《ぞうしめ》も払われる。

 部屋には。

 父、不比等。

 四兄弟。

 そして、あたし。

 六人だけ。

 ……なんだこれ。

 完全に組の密談。

 額を寄せ、声を潜める男たち。

 空気が、ぴんと張りつめる。

 父が口を開いた。

「聞け」

 低い声。

「県犬養広刀自《あがたいぬかいのひろとじ》が――娘を産んだ」

「なに!?」

「許せぬ!」

「光明子を差し置いて!」

「父上。殺《や》りますか?」

(物騒っ!!)

 待って待って。

 奈良時代って、そんな修羅の国!?

 父は冷静だった。

「馬鹿者。今は動くな」

 そして。

 まっすぐ、あたしを見る。

「光明子」

 声が低くなる。

「年が明ければ、お前は十七」

「は、はい」

「誰よりも美しくあれ」

 兄たちが頷く。

「香を焚け」

「教養を磨け」

「首皇子と話せ」

「国造りと仏法を学べ」

「信頼を勝ち取れ」

 矢継ぎ早に飛んでくる言葉。

 そして。

 父は言った。

「――お前は、この国初の、貴族出身の皇后になれ」

「……は?」

 空気が止まる。

「え、確認だけど」

 あたしは瞬きをした。

「皇后って、皇族しかなれないんじゃ?」

「あったりまえじゃ!!」

 父、激怒。

「ばっかもん!!」

 兄たちもうなずく。

「だからこそ!」

 父が身を乗り出した。

「そこを変える!」

 目が、怖い。

 完全に本気だ。

「俺たちが法律だ」

(怖っ!!)

 兄が静かに尋ねる。

「反対する奴は?」

 父、不比等。

 一言。

「ねじ伏せる」

 ……あ。

 血が騒ぐ。

 なんか懐かしい。

 理屈じゃない。

 こういう空気。

 前世で見た気がする。

 極道の家で育った血が、ざわっと熱くなった。

「嫉妬するな」

 父が言う。

「兄弟の娘たちも、いずれ夫人になる。だが――」

 指を突きつけた。

「皇后になるのは、お前だ」

 兄たちが口々に言う。

「首皇子は気が弱い」

「病弱だ」

「一度出血すると止まらぬ」

「行基《ぎょうき》という僧にしか心を開いておらぬ」

「守らねば、この国は乱れる」

「少しでも隙を見せれば、闇討ちもある」

「強くなれ。光明子」

 そして。

 兄・麻呂《まろ》が、ぼそりと言った。

「犬養の女……そろそろ殺すか?」

 場が凍る。

(怖っ!!)

 父は即答した。

「馬鹿者」

「そんなことをすれば、向こうはもっと美しく、もっと賢い姫を差し出してくる」

 そして鼻で笑う。

「今のあばずれ程度が、ちょうどいいのだ」

「はっ!」

 兄たちが声をそろえる。

 ……いや。

 怖すぎん?

 奈良時代って平安じゃなくて、ほぼ戦国じゃん。

 でも。

 もう決まったらしい。

 逃げ道は、ない。

 あたしは小さく息を吸った。

 そして。

 拳を握る。

(……やってやる)

 陰謀だらけの奈良時代?

 上等。

 この国の皇后に――

 あたしはなる!