そのほくろに恋をした


月末と書いて地獄と読む。

総務部は書類の山、電話は鳴りっぱなし。
私はついに二十二時を過ぎた頃、魂の抜けた顔で書類整理をしていた。

「帰りたい……」
でもまだ備品管理表が終わらない。
なんで会社って紙を愛しすぎるんだろう。
ふわり、と意識が遠のき始めた、その時だった。

「……おい」
「うぉぁ!?」
「……何をしている」

気が付けば、目の前で社長が呆れた顔をして私を見下ろしていた。

「す、すみません!! ちょっとだけ意識が!!」
「ちょっとの顔じゃなかったぞ」
「うっ」
私は机に散らばった資料を慌てて集めた。

「総務の月末処理か。まだ終わってないのか」
「量が多くて……」

情けない。そう怒られるかなと思った。
でも社長はため息をついただけだった。

「貸せ。俺も確認する」
「ええっ!?」

社長が、総務の雑務を!?
私は慌てて首を振った。

「だ、大丈夫です!! 社長のお時間をほくろ以外に使わせるわけには!!」
「その言い方やめろ」

社長は普通に隣へ座った。
あまりに近い距離に、私は固まった。

近くで見ると本当に顔がいい。
そしてほくろも綺麗。

「……いつもそんなに真面目に働いてるのか」
「え?」
「雑務まで抱え込んでるだろ」
私は首を傾げた。

「普通じゃないですか?」
「普通じゃない」

静かな資料室にページをめくる音だけが響く。

社長って、不思議だ。

最初は怖かったし、今も怖い時ある。
でも、冷たい人ではない気がする。


***

「終わった〜……」
「帰るぞ」

社長が立ち上がると、私は慌てて荷物をまとめた。

会社の外へ出ると夜風が涼しい。

「送る」
「一人で帰れますよ?」
「深夜に一人で帰らせられるか」
「優しいですね」
「違う」

すぐに否定されるけれど、ちょっと耳赤い。

私は隣を歩きながら、ちらりと横顔を見る。
街灯の下で見るほくろ、すごい綺麗だな。

「……また見てる」
「はい」
「堂々とするな」
その時社長がふいに言った。

「昔、そのほくろが嫌いだった」
私は足を止めた。
社長は前を向いたまま続ける。

「父に──欠点だ、と言われてな」

私は目を瞬いた。

こんなに綺麗なのに、欠点?

「……前社長、目、悪かったんですね」
「目?」
「こんなに素敵なのに」

社長が黙る。
社長は小さく笑った。

「君だけだ。そんなこと言うのは」

私は胸がぎゅっとした。

あれ、なんだろ。
なんか、変だ。