そのほくろに恋をした


 最近、社長が妙に私を見ている気がする。

 今もそう。
 コピーを取っていると、社長がじっと私を見つめていた。

 「……君は、毎日あんなこと考えてるのか」
 「へ?」
 「ほくろのことだ」
 「はい!!」

 私が即答すると、社長が眉間を押さえた。

 疲れてるのかな?
 あれ、でも──。

 「今日ちょっと寝不足ですか?」
 「……なぜ分かる」
 「ほくろに疲れが……」
 「ほくろ基準で体調判断するな」

 だって分かるんだもん。仕方ないじゃんか。
 すると社長はじっと私を見た。
 なんだかとても真剣な表情に、私も一瞬たじろぐ。

 「君は、本当に俺のこと興味ないんだな」
 「え?」
 「社長だから近づいてるわけじゃないんだろ」
 私は首を傾げた。

 「社長じゃなくても好きですよ?」
 「っ……」
 「そのほくろ」
 「……」
 社長が黙った。

 あれ。
 なんか変なこと言った?

 すると社長は視線を逸らしてから、低く呟いた。

 「……変な女」
 でもその声は、前みたいに冷たくなかった。

 「蓮様」
 突然割って入った高い声。
 振り向くと、秘書課の片川綾音さんが立っていた。

 うわ、美人。
 高級ブランドの広告みたい。
 綾音さんは私を見ると、にこりと笑った。

 「あなたが噂の雛形さん?」
 「噂?」
 「ええ。“社長のほくろを愛でる女”って」
 事実とはいえ嫌な噂だな。

 「忠告しておくわ」
 「はい?」
 「社長に変な気を起こさないことね」

 変な気?
 私が?
 本体(社長)に?

 「社長は特別な方なの。簡単に近づける相手じゃないわ」
 「でも近づかないとほくろ見えないですよ?」
 その瞬間、綾音さんの笑顔が固まって、社長が突然吹き出した。

 「……ふはっ」

 え。笑った?
 私はその光景に硬直し、綾音さんも目を見開いている。

 が、すぐに社長は口元を押さえながら横を向いてしまった。
 肩が震えてる。

 待って。
 今日めちゃくちゃ動くじゃん!!

 綾音さんは信じられないものを見る顔をしていた。
 「蓮様が、笑った……?」
 「ごほんっ」
 社長は咳払いすると、無理やり真顔に戻ってしまった。

 「雛形」
 「はい!!」
 「お前はもう黙れ」