トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-

店の奥の半個室へ案内され、私たちは自然と席へ座っていく。

森崎さんが慣れた様子でメニューを開いた。

「苦手なもんある人います?」

「特には」

「大丈夫です」

みんなが答えていく。

すると森崎さんが私を見る。

「一ノ瀬さんは?」

「私も大丈夫です」

「了解」

そのまま慣れた手つきで注文を始める。

その姿を見ながら、私はなんとなく肩の力を抜いていた。

昼間までの緊張感が少しずつほどけていく。

料理が運ばれてきて、飲み物も揃う。

「じゃあ改めて」

森崎さんがグラスを持ち上げた。

「日本初フライト育成プロジェクト、成功祈願で」

「乾杯」

「乾杯」

グラスが軽くぶつかる。

その音が、どこか心地よかった。

少しして。

神波さんが唐揚げをつまみながら笑う。

「しかし、本当に濃いメンバーですよね」

「全国から集めるって聞いた時点で想像はしてましたけど」

「まぁクセ強そうなん集めましたからねぇ」

森崎さんが笑う。

「指導者側も育成側も」

「確かに」

斉賀さんが静かに頷く。

すると森崎さんが私へ視線を向けた。

「一ノ瀬さん、今日どうでした?」

「育成メンバー」

急に話を振られて少し驚く。

私は少し考えてから答えた。

「……みんなレベル高いなって思いました」

「ですよねぇ」

「経験もあるし、現場慣れしてる人が多いです」

今日の動きを思い出す。

初動。

観察。

報告。

確かに粗削りな部分はある。

でも、土台はしっかりしていた。

「だからこそ難しいんでしょうね」

私がそう言うと。

神波さんが興味深そうにこっちを見る。

「どういう意味です?」

「経験がある分、自分のやり方が出来上がってるからです」

「……あぁ」

斉賀さんが小さく頷いた。

「確かに、そこは新人教育より難しい」

「はい」

私は静かに頷く。

「特にフライトって、病院ごとの文化もかなり違うので」

すると森崎さんが笑った。

「ほんまそれ」

「ICU最強タイプほど、最初苦労します」

「自分の正解持ってるから」

その言葉に、私は自然と橘さんを思い浮かべていた。

観察力は高い。

判断も早い。

でも。

きっと今まで、かなり一人で戦ってきた人だ。

すると神波さんがふと笑う。

「でも一ノ瀬さん、指導向いてますね」

「え?」

「いや、見てて思いました」

「ちゃんと相手見て話してる」

突然そう言われて、少し戸惑う。

「そんなこと……」

「ありますよ」

神波さんは真面目だった。

「指導って、出来る人が向いてるわけじゃないんです」

「相手見れる人が向いてる」

その言葉に、少しだけ胸が止まる。

指導者。

まだその言葉に慣れない。

東京では後輩指導はしてきた。

でも。

“全国規模の育成プロジェクトの指導者”。

その肩書きは、やっぱり重い。

すると森崎さんがグラスを揺らしながら笑う。

「まぁでも一ノ瀬さん、育成側からしたら結構怖いと思いますよ」

「え!?」

「だって冷静すぎるもん」

「いやいや」

「今日も一人だけ空気違いましたし」

「そうですか?」

「そうです」

即答だった。

しかも全員頷いてる。

私は困って小さく笑うしかない。

すると斉賀さんが静かに言った。

「でも、ああいう人が現場には必要です」

「パニックにならない人間」

「空気を安定させる人間」

その言葉に、場の空気が少しだけ真面目になる。

命の現場。

フライト。

一つの判断ミスが命取りになる世界。

だからこそ。

感情だけじゃ動けない。

すると森崎さんがふっと笑った。

「まぁ、明後日なったらもっと分かりますよ」

「現場出たら、一気に空気変わるんで」

その言葉に。

私は静かにグラスへ視線を落とした。

大阪での初フライト。

育成メンバーを連れて行く、初めての現場。

指導者として。

フライトナースとして。

試されるのは、これからだった。