その後も何度かシミュレーションを行い、気づけば夕方。
森崎さんはホワイトボードの前へ立つ。
「じゃ、振り返りします」
ペンを回しながら、まず真壁くんを見る。
「真壁くん」
「はい!」
「声出しめちゃくちゃ良かった」
「チーム動かす時、声出せる人は強い」
真壁くんの表情が少し明るくなる。
でも。
森崎さんはそこで止まらない。
「ただ」
空気が少し変わる。
「焦った時、視野狭なる癖ある」
「一点集中しすぎ」
「ABG採る時、患者の呼吸状態から一瞬目離れてたやろ?」
「あ……」
真壁くんが言葉を詰まらせる。
「もちろん採血も大事」
「でも急変中は“今一番危ないもん何か”見失ったらあかん」
真壁くんが真剣な顔で頷いた。
「はい」
森崎さんは次に宮原さんを見る。
「宮原さんは初動速い」
「薬剤準備も綺麗」
「動線も悪くない」
褒められた宮原さんが少し安心した顔をする。
でも。
「ただ、人に頼るの下手」
「……え」
「全部自分で抱え込もうとするやろ」
宮原さんが小さく黙る。
図星なんだと思う。
「現場って“出来る人”ほどそれやりがちなんです」
「でもフライトはチーム戦やから」
「抱え込み始めた瞬間、全体崩れます」
静かな声。
でもすごく重かった。
宮原さんが小さく頭を下げる。
「……はい」
次。
「朝比奈くん」
「はい!」
「冷静さはある」
「モニター読む力も高い」
「ただ」
森崎さんが少しだけ笑う。
「顔に出る」
「え?」
「焦った時めちゃくちゃ顔死ぬ」
その瞬間、周りが吹き出す。
「いやほんまに」
「患者家族見たら余計不安なるタイプ」
「っ……」
朝比奈くんが顔を覆う。
でも森崎さんはちゃんと続けた。
「でも逆に言えば、そこ直したらかなり強い」
「落ち着いて見せるんも技術やで」
一人一人。
ちゃんと見てる。
出来てるところも。
足りないところも。
だから全員、真剣に聞いていた。
そして。
「橘さん」
名前を呼ばれる。
橘さんが静かに顔を上げる。
「観察能力高い」
「先読みも出来る」
「急変時、患者の変化拾うん早かった」
橘さんの目が少し揺れる。
ちゃんと評価されてる。
その実感があるんだと思う。
でも。
森崎さんは真っ直ぐ続けた。
「ただ」
その瞬間。
橘さんの空気が少し変わる。
「言葉が強い」
静かな声。
でもハッキリしていた。
「今回も途中、宮原さんに言い方きつかった」
「あ……」
宮原さんが少し気まずそうに視線を下げる。
橘さんも黙る。
でも森崎さんは責める感じじゃなかった。
「言ってる内容は正しいんです」
「でも現場って、“正しいだけ”じゃ回らへん」
その言葉が、静かに響く。
「フライトは狭い空間です」
「逃げ場ない」
「そこで空気悪くなると、判断力落ちる」
「……はい」
橘さんが小さく頷く。
その横顔は悔しそうだった。
多分。
自分でも分かってるから。
でも。
簡単に直せない。
だから苦しい。
すると森崎さんが、少しだけ柔らかく笑った。
「でも逆に言えば」
「そこ直ったら、橘さんかなり強いですよ」
その言葉に。
橘さんが少しだけ目を見開く。
「現場力はほんま高い」
「だから期待してます」
静かな声。
でも。
ちゃんと本音だった。
橘さんが、小さく頭を下げる。
そして最後。
森崎さんが、全員を見渡した。
空気が変わる。
「みんな、普通にレベル高いです」
「正直、想像以上」
その言葉に、育成メンバーたちが少しだけ表情を緩める。
でも。
森崎さんはそこで、指を一本立てた。
「ただ」
また空気が締まる。
「フライトで一番大事なん、技術だけちゃいます」
誰も喋らない。
森崎さんはゆっくり続けた。
「落ち着くこと」
「そして」
「確実にやること」
その声は、さっきまでよりずっと真剣だった。
「急変現場って、空気に飲まれるんです」
「音も、人も、焦りも、全部」
「そこでパニックになったら終わり」
静まり返る部屋。
そんな中。
森崎さんが、ふっと私を見る。
「だから」
「そこは一ノ瀬さん見習ってください」
一瞬、空気が止まる。
「今日も途中、一番落ち着いてたんこの人です」
「焦ってへん」
「視野狭なってへん」
「ちゃんと全体見れてる」
私は少しだけ困ったように眉を下げる。
でも森崎さんは真面目なままだった。
「もちろん経験値もある」
「でもそれ以上に」
「“冷静さ”は才能です」
その言葉に、育成メンバーたちが静かにこちらを見る。
「現場で冷静でいられる人間は、それだけで周り救える」
「パニックって伝染するんで」
そして。
森崎さんは少しだけ笑った。
「逆に、一ノ瀬さんみたいな落ち着きも伝染する」
森崎さんのその言葉で、部屋の空気が少し静かになる。
育成ナースたちは、それぞれ何かを考えるような顔をしていた。
私は少しだけ居心地が悪くて、小さく視線を逸らす。
そんなに褒められるようなことじゃない。
ただ。焦らないようにしてるだけだ。
森崎さんはホワイトボードの前へ立つ。
「じゃ、振り返りします」
ペンを回しながら、まず真壁くんを見る。
「真壁くん」
「はい!」
「声出しめちゃくちゃ良かった」
「チーム動かす時、声出せる人は強い」
真壁くんの表情が少し明るくなる。
でも。
森崎さんはそこで止まらない。
「ただ」
空気が少し変わる。
「焦った時、視野狭なる癖ある」
「一点集中しすぎ」
「ABG採る時、患者の呼吸状態から一瞬目離れてたやろ?」
「あ……」
真壁くんが言葉を詰まらせる。
「もちろん採血も大事」
「でも急変中は“今一番危ないもん何か”見失ったらあかん」
真壁くんが真剣な顔で頷いた。
「はい」
森崎さんは次に宮原さんを見る。
「宮原さんは初動速い」
「薬剤準備も綺麗」
「動線も悪くない」
褒められた宮原さんが少し安心した顔をする。
でも。
「ただ、人に頼るの下手」
「……え」
「全部自分で抱え込もうとするやろ」
宮原さんが小さく黙る。
図星なんだと思う。
「現場って“出来る人”ほどそれやりがちなんです」
「でもフライトはチーム戦やから」
「抱え込み始めた瞬間、全体崩れます」
静かな声。
でもすごく重かった。
宮原さんが小さく頭を下げる。
「……はい」
次。
「朝比奈くん」
「はい!」
「冷静さはある」
「モニター読む力も高い」
「ただ」
森崎さんが少しだけ笑う。
「顔に出る」
「え?」
「焦った時めちゃくちゃ顔死ぬ」
その瞬間、周りが吹き出す。
「いやほんまに」
「患者家族見たら余計不安なるタイプ」
「っ……」
朝比奈くんが顔を覆う。
でも森崎さんはちゃんと続けた。
「でも逆に言えば、そこ直したらかなり強い」
「落ち着いて見せるんも技術やで」
一人一人。
ちゃんと見てる。
出来てるところも。
足りないところも。
だから全員、真剣に聞いていた。
そして。
「橘さん」
名前を呼ばれる。
橘さんが静かに顔を上げる。
「観察能力高い」
「先読みも出来る」
「急変時、患者の変化拾うん早かった」
橘さんの目が少し揺れる。
ちゃんと評価されてる。
その実感があるんだと思う。
でも。
森崎さんは真っ直ぐ続けた。
「ただ」
その瞬間。
橘さんの空気が少し変わる。
「言葉が強い」
静かな声。
でもハッキリしていた。
「今回も途中、宮原さんに言い方きつかった」
「あ……」
宮原さんが少し気まずそうに視線を下げる。
橘さんも黙る。
でも森崎さんは責める感じじゃなかった。
「言ってる内容は正しいんです」
「でも現場って、“正しいだけ”じゃ回らへん」
その言葉が、静かに響く。
「フライトは狭い空間です」
「逃げ場ない」
「そこで空気悪くなると、判断力落ちる」
「……はい」
橘さんが小さく頷く。
その横顔は悔しそうだった。
多分。
自分でも分かってるから。
でも。
簡単に直せない。
だから苦しい。
すると森崎さんが、少しだけ柔らかく笑った。
「でも逆に言えば」
「そこ直ったら、橘さんかなり強いですよ」
その言葉に。
橘さんが少しだけ目を見開く。
「現場力はほんま高い」
「だから期待してます」
静かな声。
でも。
ちゃんと本音だった。
橘さんが、小さく頭を下げる。
そして最後。
森崎さんが、全員を見渡した。
空気が変わる。
「みんな、普通にレベル高いです」
「正直、想像以上」
その言葉に、育成メンバーたちが少しだけ表情を緩める。
でも。
森崎さんはそこで、指を一本立てた。
「ただ」
また空気が締まる。
「フライトで一番大事なん、技術だけちゃいます」
誰も喋らない。
森崎さんはゆっくり続けた。
「落ち着くこと」
「そして」
「確実にやること」
その声は、さっきまでよりずっと真剣だった。
「急変現場って、空気に飲まれるんです」
「音も、人も、焦りも、全部」
「そこでパニックになったら終わり」
静まり返る部屋。
そんな中。
森崎さんが、ふっと私を見る。
「だから」
「そこは一ノ瀬さん見習ってください」
一瞬、空気が止まる。
「今日も途中、一番落ち着いてたんこの人です」
「焦ってへん」
「視野狭なってへん」
「ちゃんと全体見れてる」
私は少しだけ困ったように眉を下げる。
でも森崎さんは真面目なままだった。
「もちろん経験値もある」
「でもそれ以上に」
「“冷静さ”は才能です」
その言葉に、育成メンバーたちが静かにこちらを見る。
「現場で冷静でいられる人間は、それだけで周り救える」
「パニックって伝染するんで」
そして。
森崎さんは少しだけ笑った。
「逆に、一ノ瀬さんみたいな落ち着きも伝染する」
森崎さんのその言葉で、部屋の空気が少し静かになる。
育成ナースたちは、それぞれ何かを考えるような顔をしていた。
私は少しだけ居心地が悪くて、小さく視線を逸らす。
そんなに褒められるようなことじゃない。
ただ。焦らないようにしてるだけだ。

