トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-

部屋へ入ってから、しばらく。

私はぼーっとベッドへ座っていた。

静かだ。

さっきまであんなに賑やかだったのに。

急に現実へ戻されたみたい。

その時。

コンコン。

部屋の扉がノックされた。

「……?」

こんな時間に誰だろ。

私は立ち上がって扉へ向かう。

覗き穴を見る。

そこに立っていた人物に、思わず目を見開いた。

——優朔さん。

慌てて扉を開ける。

「えっ……どうしたんですか?」

すると優朔さんが、少し困ったみたいに笑った。

「ごめん、起こした?」

「いえ全然」

「……少し入っていい?」

その言葉に、一瞬ドキッとする。

いや待って。

なんで急にそんな落ち着いた声で言うの。

心臓に悪い。

私はぎこちなく頷いた。

「……はい」

優朔さんが「ありがとう」と小さく笑って部屋へ入る。

私はなんだか妙に緊張してしまって、とりあえずソファを勧めた。

何。

なんの話。

陽貴さんのこと?

紗凪のこと?

まさか何か悪い話……?

頭の中で色々ぐるぐるしていると。

優朔さんが静かに口を開いた。

「……梓ちゃん」

「はい」

「本当に頑張ったね」

その言葉に。

私は、一瞬意味が分からなかった。

「……え?」

優朔さんは穏やかな目で続ける。

「紗凪ちゃん倒れてから」

「ずっと一人で頑張ってたでしょ」

私は言葉を失う。

優朔さんは静かに笑った。

「見知らぬ土地で、毎日病院通って」

「ご両親とも連絡取って」

「東京中央大学病院ともやり取りして」

「陽貴にも毎日電話して」

「紗凪ちゃん励まして」

「……全部、知ってる」

胸が、ぎゅっとなった。

私は思わず目を逸らす。

そんな風に見られてたなんて思わなかった。

だって。

私はただ、必死だっただけだ。

紗凪を一人に出来なかった。

それだけ。

優朔さんが、小さく息を吐く。

「陽貴、ほんと救われてた」

「毎日梓ちゃんから電話来るたび、顔違ったから」

その言葉に、胸がじわっと熱くなる。

私は苦笑した。

「……陽貴さん、ほんとギリギリだったから」

「うん」

優朔さんが静かに頷く。

「あいつ、表に出さないだけでかなりヤバかった」

「仕事中も、楽屋戻るたび紗凪ちゃんの動画見てて」

思わず、少し笑ってしまう。

容易に想像できる。

優朔さんもふっと笑った。

でも次の瞬間。

少しだけ真面目な顔になる。

「でもさ」

「多分、一番しんどかったの梓ちゃんだと思う」

その言葉に、息が止まりそうになる。

私は慌てて首を横に振った。

「そんなこと……」

「あるよ」

優朔さんは、優しい声で遮った。

「だって梓ちゃん、自分のこと全然後回しにするじゃん」

図星だった。

私は何も言えなくなる。

優朔さんは苦笑する。

「一ノ瀬さんと似てる」

「……それ嬉しくないです」

思わず返すと。

優朔さんが吹き出した。

「はは、そこ否定しないんだ」

その空気に、少しだけ緊張が解ける。

そして。

優朔さんが、ふっと目を細めた。

「ほんとありがとね」

静かな、本気の声だった。

私はその言葉に、なぜか急に泣きそうになってしまった。