重たい沈黙が落ちる。
赤く点灯したままの手術中ランプ。
誰も、その光から目を逸らせなかった。
俺は二人へ視線を向ける。
「……ご家族は?」
その言葉に、女の子はハッとしたように顔を上げた。
涙で濡れた目のまま、必死に答える。
「紗凪の両親、海外勤務で……」
声が掠れる。
「連絡は入ってると思うんですけど、多分すぐには来れません……」
その瞬間。
周囲の空気がまた少し沈んだ。
今ここにいるのは。
紗凪が一番信頼してる人たちなんやろな。
俺は小さく頷く。
「……分かりました」
すると。
さっきまで涙を堪えるだけやった梓さんの空気が、少し変わる。
震えてた手をぎゅっと握って。
まっすぐ俺を見る。
「……受傷時、どんな状況だったんですか」
その声に、周囲のスタッフも少し驚いた顔をした。
梓さんは続ける。
「受傷機転は?」
「初期バイタルはどうでした?」
「現場で意識は?」
涙声なのに。
質問だけは的確やった。
俺は思わず聞き返す。
「……医療者ですか?」
梓さんが小さく頷く。
「東京中央大学病院の救命ナースです」
その瞬間、ようやく全部繋がった。
紗凪ちゃんの親友。
同じ救急。
だから、こんな状況でも情報を聞こうとしてる。
感情だけで来てへん。
“状況を理解しよう”としてる顔やった。
俺は静かに説明する。
「工事現場での事故です」
「資材落下」
「後輩を庇って直撃受けました」
その瞬間。梓さんの目が大きく揺れた。
でも、逸らさへん。
「……意識は?」
「受傷直後はありました」
「ただ、そのあと急速にレベル落ちてます」
「SpO₂も低下」
「胸部外傷がかなり強い」
そこまで聞いた時点で梓さんの顔色が変わった。
ERナースやから分かるんやろ。
この情報が、どれだけ危険か。
俺は続ける。
「肺挫傷、多発肋骨骨折」
「腹腔内出血もあります」
「今もオペ継続中です」
梓さんの喉が小さく震える。
「……そんな」
声が掠れた。
「紗凪、そんな状態で……」
そのまま口元を押さえる。
涙がまた溢れた。
まだ聞こうとする。
「……循環は?」
「大量輸血入ってます」
「ECMO導入も視野に入ってます」
その瞬間。
梓さんの目から、堪えきれなかった涙が一気に零れ落ちた。
ERで働いてる人間なら分かる。
ECMO。
それが意味する危機的状況。
助かるかどうかの瀬戸際。
梓さんはその場で崩れそうになりながら、小さく首を振った。
「……やだ……」
「紗凪……」
その声が痛いくらい弱かった。
その横で。
佐野陽貴は、ずっと黙ったまま立っていた。
専門的な話は全部理解できてへんと思う。
でも。
“命が危ない”
それだけは、嫌でも伝わってる。
帽子の影で表情は見えへん。
けど。
握り締めた拳だけが、小さく震えていた。
赤く点灯したままの手術中ランプ。
誰も、その光から目を逸らせなかった。
俺は二人へ視線を向ける。
「……ご家族は?」
その言葉に、女の子はハッとしたように顔を上げた。
涙で濡れた目のまま、必死に答える。
「紗凪の両親、海外勤務で……」
声が掠れる。
「連絡は入ってると思うんですけど、多分すぐには来れません……」
その瞬間。
周囲の空気がまた少し沈んだ。
今ここにいるのは。
紗凪が一番信頼してる人たちなんやろな。
俺は小さく頷く。
「……分かりました」
すると。
さっきまで涙を堪えるだけやった梓さんの空気が、少し変わる。
震えてた手をぎゅっと握って。
まっすぐ俺を見る。
「……受傷時、どんな状況だったんですか」
その声に、周囲のスタッフも少し驚いた顔をした。
梓さんは続ける。
「受傷機転は?」
「初期バイタルはどうでした?」
「現場で意識は?」
涙声なのに。
質問だけは的確やった。
俺は思わず聞き返す。
「……医療者ですか?」
梓さんが小さく頷く。
「東京中央大学病院の救命ナースです」
その瞬間、ようやく全部繋がった。
紗凪ちゃんの親友。
同じ救急。
だから、こんな状況でも情報を聞こうとしてる。
感情だけで来てへん。
“状況を理解しよう”としてる顔やった。
俺は静かに説明する。
「工事現場での事故です」
「資材落下」
「後輩を庇って直撃受けました」
その瞬間。梓さんの目が大きく揺れた。
でも、逸らさへん。
「……意識は?」
「受傷直後はありました」
「ただ、そのあと急速にレベル落ちてます」
「SpO₂も低下」
「胸部外傷がかなり強い」
そこまで聞いた時点で梓さんの顔色が変わった。
ERナースやから分かるんやろ。
この情報が、どれだけ危険か。
俺は続ける。
「肺挫傷、多発肋骨骨折」
「腹腔内出血もあります」
「今もオペ継続中です」
梓さんの喉が小さく震える。
「……そんな」
声が掠れた。
「紗凪、そんな状態で……」
そのまま口元を押さえる。
涙がまた溢れた。
まだ聞こうとする。
「……循環は?」
「大量輸血入ってます」
「ECMO導入も視野に入ってます」
その瞬間。
梓さんの目から、堪えきれなかった涙が一気に零れ落ちた。
ERで働いてる人間なら分かる。
ECMO。
それが意味する危機的状況。
助かるかどうかの瀬戸際。
梓さんはその場で崩れそうになりながら、小さく首を振った。
「……やだ……」
「紗凪……」
その声が痛いくらい弱かった。
その横で。
佐野陽貴は、ずっと黙ったまま立っていた。
専門的な話は全部理解できてへんと思う。
でも。
“命が危ない”
それだけは、嫌でも伝わってる。
帽子の影で表情は見えへん。
けど。
握り締めた拳だけが、小さく震えていた。

