トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

「エコー入ります!」

助手がプローブを当てる。

モニターへ映し出される黒い影。

その瞬間。

「……腹腔内も出てる」

空気が変わった。

胸部外科医が即座に顔を上げる。

「General呼べ!」

「腹部も開ける!」

「はい!」

スタッフが一気に動き出す。

オペ室の扉が開閉を繰り返す。

足音。

無影灯の熱。

全部が混ざり合っていた。

麻酔科医がモニターを見ながら声を張る。

「SpO₂82!」

「循環かなり厳しいです!」

「輸血どこまで入った!?」

「RCC10入ってます!」

「FFP急いで!」

誰も止まらない。

止まれない。

今ここで手を止めたら本当に失う。

その現実が、全員を焦らせていた。

胸部外科医が汗を拭う暇もなく声を上げる。

「吸引!見えない!」

「はい!」

真っ赤な吸引ボトルが次々交換されていく。

術野は酷かった。

肋骨骨折による肺損傷。

胸腔内出血。

そして腹腔内出血。

落下してきた鉄骨の衝撃が、想像以上だった。

「若いから持ってるだけだ……」

胸部外科医が低く呟く。

普通ならもうショックアウトしていてもおかしくない。

それでもこの身体はまだ、生きようとしている。

その時だった。

ピーーーッ——

またモニター音が変わる。

「血圧測定不能!」

「っ……!」

空気が凍る。

麻酔科医が即座に叫ぶ。

「心拍落ちる!」

「徐脈!」

「アドレナリン入れろ!」

一気に緊張が跳ね上がる。

胸部外科医が鋭く声を飛ばした。

「絶対止めるな!!」

「はい!!」

術野へさらに人が集まる。

誰もが必死だった。

仲間だからとか。

同僚だからとか。

そんな感情を超えて。

“助けなきゃいけない人間”が今ここにいる。

それだけだった。

麻酔科医が強く言う。

「ECMOスタンバイいつでもいけます!」

「まだ待て!」

胸部外科医が即答する。

「自力で戻せるなら戻す!」

その目は、術野だけを見ていた。

一秒でも早く。

一滴でも出血を止める。

その執念だけで動いている。

助手の看護師が、小さく息を呑む。

こんなオペ室。

久しぶりだった。

極限。

全員がギリギリ。

でも。

誰一人、諦めていない。

胸部外科医が、ぐっと鉗子へ力を込める。

「……取れた!」

その瞬間。

「出血減ります!」

助手の声。

麻酔科医がすぐモニターを見る。

「……っ、血圧戻り始めた!」

「65……70……!」

空気が一瞬だけ動く。

でも。

誰も安心しない。

まだ終わっていない。

胸部外科医が荒く息を吐く。

「……ここからだ」

低い声。

その目はまだ鋭いままだった。

術台の上。

紗凪の指先は、まだ冷たかった。