隣の席の悪魔

「空くーん」

朝一番。

私はいつものように、
隣へ身を乗り出す。

窓の外。

春の青空。

まだ少し静かな教室に、
朝の光が差し込んでいた。

「おはよ!」

「……朝から元気だな」

「空くん元気ない!」

「普通」

「えー」

机に頬杖をつく空くん。

眠そう。

なんか。

猫っぽい。

可愛い。

「……その顔やめろ」

「どの顔?」

「なんか考えてる顔」

バレた。

すごいなこの人。

「空くんって、
猫みたいだなーって」

「悪口?」

「褒め言葉!」

「最近それ多いな」

すると。

後ろから、
聞き慣れた笑い声。

「朝から夫婦漫才?」

葛西くん。

でっか。

ちょっと離れたところから
話してほしい。

首痛いから。

「夫婦じゃない!!」

即答。

すると。

隣で。

「当たり前だろ」

空くんまで即答。

……なんか。

ちょっとムカつく。

「なにその速さ!」

「事実」

「冷たっ!!」

葛西くんが笑う。

「いやでも、
お前ら最近ずっと喋ってるじゃん」

「喋ってない」

「喋ってる!!」

また。

葛西くん、
肩震えてる。

私と空くんも、
違う意味で肩を震わせてる。

「息ぴったりかよ」

「「違う!!」」

……なんなのこれ。

「夫婦じゃん」

その時。

ガラッ。

先生が教室に入ってきた。

「あー、
今日は部活動説明会あるぞー」

部活か。

そういえば、
まだ決めてない。

私はすかさず隣を見る。

「空くん、
部活なにか入るの?」

「まだ決めてない」

「え、意外!」

「なんで」

「なんか、
帰宅部で勉強してそう」

「偏見すごいな」

「違うの?」

少し考えて。

空くんが言った。

「部活は入る気ないけど
……走るのは好き」

え。

私は思わず顔を上げた。

「走るの!?」

「なにその反応」

「私も得意!!」

少しだけ、
空くんの眉が動く。

「……見えない」

「失礼な!!」

「足短そう」

「うわ最悪!!!」

葛西くんが、
机に突っ伏して笑ってる。

私はむっとしながら胸を張った。

「小学校、
マラソン大会一番だったもん!」

「……へぇ」

空くんが、
少しだけこっちを見る。

珍しい。

ちゃんと興味ありそう。

「空くんは?」

「駅伝。
クラブで」

え。

急になんか、
かっこいいじゃん。

「空くん、
速いの?」

「普通」

「絶対速いやつじゃん!」

すると。

空くんが、
少しだけ口角を上げた。

「勝負する?」

……え。

一瞬。

空気が止まる。

「……勝負?」

「今度、放課後」

相変わらず低い声。

でも。

少しだけ、
楽しそうな顔。

え。

待って。

空くんが。

誘ってるだと???

葛西くんが、
気を取り直したみたいに呟く。

「空から誘うとか、
珍し」

ぴたり。

空くん止まる。

「……別に」

でも。

耳。

ちょっと赤い。

可愛い。

「やる!!!」

私は勢いよく立ち上がった。

「負けた方、
ジュース奢りね!!」

「なんで」

「青春だから!」

「意味わかんない」

でも。

空くん。

やっぱり少し笑ってた。



空side

別に。

誘うつもりなんて、
なかった。

ただ。

“走るの得意”

って言われた時。

少しだけ気になった。

うるさいやつ。

落ち着きないやつ。

そいつが、
どんな風に走るのか。

少しだけ、
見てみたいと思った。

……訂正。

負かして、
悔しがる顔が見たいだけ。