隣の席の悪魔

十月。

気づけば、

風が少し冷たくなっていた。

放課後。

窓の外は、
今日もオレンジ色。

「はぁぁぁ……」

私は机に突っ伏した。

「眠い……」

「授業中も寝てただろ」

隣の空くんを一瞥して

「寝てないし!」

また机に頭をおろす。

「白目だった」

「最悪っ!!」

「はは」

最近
空くんが、前より笑うようになった気がする。

……気のせいかもしれないけど。


空くんが、
教科書をカバンにしまいながら立ち上がった。

「帰る?」

「うん!」

私は勢いよく立ち上がる。

「……図書室寄る」

「え?」

空くんは、少しだけ視線を逸らした。

「本、返すの忘れてた」

私は思わず笑った。

「空くん、
本読むんだ」

「まあ」

「勉強の本しか読まなそう」

「失礼」

そう言いながら、やっぱり少し笑ってる。

私はカバンを背負い直した。

「じゃあ私も行く!」

「なんで」

「暇だから!」

「……あっそ」

つれない返事。

でも、こういう時

空くんが嫌なわけじゃないってことを
私は知ってる。

上機嫌で、空くんの後を追った。



図書室。

静かな空気。

窓から差し込む夕方の光。

ページをめくる音だけが、
小さく響いている。

空くんは、
慣れた手つきで本の返却手続きを済ませた。

「空くんって、
図書室よく来るの?」

「たまに」

絶対嘘。

慣れてるもん。

私は本棚の間を歩きながら、
背表紙を眺めた。

その時。

ふわっと風が吹く。

「……あ」

甘い匂い。

私は思わず窓の外を見る。

夕焼け。

揺れる木。

そして。

「金木犀だ」

空くんが、
ぽつりと言った。

私は瞬きをする。

「空くん、
分かるんだ」

「……有名だろ」

「えー、
なんか意外」

「だから失礼」

私は思わず笑った。

窓から入る風。

オレンジ色の光。

金木犀の匂い。

静かな図書室。

そして

隣にいる空くん。



この場所だけ、
時間が少し
ゆっくり流れてるみたいだった。



帰り道。

空はもう、
少し暗い。

街灯がぽつぽつ光り始めてる。

私は空を見上げながら歩く。

「秋ってさ」

「ん」

「なんか寂しくない?」

空くんは、ちらっと私を見て答える。

「なんで」

「夕方早いし」

私は笑った。

「夏が終わるって感じする」

沈黙。

風。

金木犀の匂い。

その時。

空くんが、
ぽつり。

「……でも嫌いじゃない」

え。

私は思わず隣を見る。

空くんは、

前を向いたまま。

「静かだから」

その言い方が、

あまりにも

空くんっぽくて

私は小さく笑う。

「空くんって、
ほんと静かなの好きだよね」

「お前がうるさいだけ」

「もう!」

私は思わず、空くんの背中を押す。

すると

「はは」

また、そらくんが笑った。

風は涼しくて

やっぱり寂しい感じがする季節だけど

胸の奥は、
少しだけあったかくなった。



空side


金木犀の匂い。

静かな図書室。

夕方の光。

そういうの、
嫌いじゃない。

でも、

今日も、

隣にはずっとうるさいやつがいた。

なのに。

不思議と、
やっぱり静かな感じがする秋は
嫌いじゃない。