20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

 お昼を食べてお店を出る。
 冷たい秋の風が静かに吹いて、私の暗い焦げ茶色の髪を静かに凪ぐ。
 時間は十二時半を過ぎたところだ。
 お昼へと向かうのであろう、会社員たちの姿が目立つ。
 この後どうしよう。
 そんな思いがよぎって、私は隣に立つ赤月君の方を見た。
 すると彼もこっちを向いていて、目が合ってしまう。
 私は完全にきょどってしまい、視線をあちこちに動かしながら言った。
 
「あ、えーと……このあと……」

「このあとどうしようか。ヒスイちゃん、時間ある?」

 私の台詞と赤月君の台詞が被って、思わず顔を合わせたまま笑ってしまう。
 
「時間はあるよ。休みだしね」

「よかった、じゃあちょっと歩こうよ。すこし離れているうちにこの辺超変わったし」

「そうね」

 答えて私たちは並んで歩きだす。
 赤月君が言う通り、私がこの県を離れて九年近くですごく変わった。
 商業施設が壊れて大きなショッピングモールが出来てるし。高校生の時にCDを買いに来ていたお店はすでに姿を消していた。
 それだけ翠玉駅の前は変化が激しかった。
 
「高校卒業してから九年でずいぶん変わったね」

「確かに。高校の時に行ってたゲーセンとかもうないし。映画館もなくなっちゃったし」

「え、そうなんだ、知らなかった」

 私たちが住んでいる隣の市、瑪瑙市は小さな町だ。なのに私立の六年一貫校がある。
 遊べる所なんてないから、よくこの翠玉市に遊びに来ていた。
 商業施設やスタバ、カラオケにゲームセンターがあったからだ。
 でもそんな想い出の場所はほとんど残っていない。

「ねえ赤月君、そのままなのって駅前のスタバくらいじゃないの?」

「そうだねー。スタバといえば試験の最終日によく行ったっけ」

 そう赤月君は懐かしそうに目を細める。
 そんなこともあったな。
 高校生の時の想い出はとうに色あせて思い出せない部分も多い。
 あの頃、そこまで仲良かったわけじゃないのに、昔の事を思い出そうとするとその断片に必ず赤月君の姿があるような気がした。
 まあなんだかんだで高校まで一緒だったしな。
 ふつうよりは濃い関係なのかもしれない。

「あったねー。皆でこっちに遊びに来て、お昼食べて遊んで、スタバいってずっとしゃべってて」

 私も懐かしさに思わず遠い目をしてしまう。
 こうしてたくさんの想い出があるのに、私、肝心なことが思い出せないままだ。
 私、プラモを壊したこと、謝ったのかな。
 聞きたいって思うのに、言葉が切りだせないでいた。心のどこかで私、あの事に触れるのが怖いのだろう。
 だから私は、赤月君に質問をぶつけることにした。

「ねえ、赤月君」

「何?」

「プラモってどういうのを作ってるの?」

「あぁ、シュリエッタのプラモが多いよ。あとはクマのプラモ集めてる」

 なんて言って、ふざけたような顔になる。

「……クマ?」

「こういうのこういうの」

 そう言いつつ赤月君はスマホを操作する。
 そこで見せてくれたのは、かわいらしいデフォルメされたぬいぐるみみたいな姿をしたいろとりどりのクマのプラモたちだった。

「なにこれかわいいー! こういうプラモもあるの?」

「うん。『クマッガイ』っていうシリーズなんだけど、大きいのとか小さいのとかいて。これ全部集めたし、カスタマイズしたりもしてて」

 言いながら赤月君は他の画像を見せてくれる。
 それは、黒地の小さなクマに緑の縁取りやラインストーンで飾り付けをしたプラモだった。
 可愛いのにすごくきれいに見える。

「すごい、これ、赤月君が作ったの?」

「うん。黒いクマッガイに緑で色いれて、ネイルなんかで使うラインストーンつけたんだ」

「超きれい。すごいなぁ、プラモってこういうことできるんだ」

 感心して私は赤月君の顔を見上げる。
 すると彼は誇らしげな表情を浮かべた。

「ありがとう、ヒスイちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ。素組み……えーと、今のプラモって最初から色がついているものが多いんだけど、自分で色つけたりして、オリジナルの彩色してこだわったりするんだよ」

「へえ、奥が深いんだねー」

 プラモってひとつの形しかできないものだと思っていたのに、こんなに自由にしていいものなんだ。
 私が知らない世界が、赤月君のスマホの中にひろがっているんだ。
 
「他にも作ってるの?」

「まあ、うん。そうだな、うちに来る機会があったら見せたいな」

 そう呟くように赤月君が言う。
 うちに来る機会。
 そう言われるとちょっと身構えてしまう。
 見たい気持ちはあるけれど、でも私なんかが赤月君の宝物を見ていいのかなって思ってしまうからだ。
 それほどに、八歳の頃の過ちは私に重い楔を打ち付けている。
 私が何も言えなくなっていると、赤月君は慌てたようにスマホをしまって、私を安心させるかのように笑う。

「ねえ、お店いろいろ見たらスタバいこうよ。久しぶりに、駅ビルのやつ」

「え? あぁ、うん、そうだね」

 私は胸の痛みを振り切るように思いっきり笑顔を作って、赤月君の提案にのった。